「今日も会えてよかったー!風邪だけ引かないようにね」
今日は、またね。だけ、言ってあげない。
私とあなたにまたね。は来ないから。
あなたと出会ってこの関係になって、初めは会えるだけで嬉しくて。
彼女とか作る気ないのー?
が、私の精一杯の好きだよ。だったのに。
今は作る気ないんだよねー。
そう言われた時に、私はしっかり失恋した。
なにかの恋愛解説本で読んだな、
って思ったの。
男が彼女を作る気ないってわざわざいう時は
お前を彼女にする気はない。だってこと。
私知ってた。
だからね、終わりにするの。
こんなにも好きになってしまったから、
せめて、引き際だけは綺麗でいたい。
今までありがとうを飲み込んで、言うの。
「気をつけて帰ってね!」
お前の歌が好き。
って笑ってくれた男はこいつで何人目かな〜
そこまで考えて、
目の前の彼に失礼だな、と思って考えるのをやめた。
思い返せばさして歌がうまい男となんて
付き合ってこなかった気がする。
歌がうまい男は口もうまい。とかいう偏見と
私調べのもと、選んでこなかったんだ。
そういえば元カレは唯一上手かったっけ。
あの人の出す綺麗な高音がもう今じゃ思い出せないけど。
「次なに歌う?」
にっこり微笑んで可愛い笑顔向けられて
そう質問されたら、さっきまでのぐるぐるしていた思考なんて飛んでいってしまった。
「なんでもいーよ、あ、でもあんまり高いと声出ないかも」
てへ、みたいに伝えれば
なににしようかなーって一生懸命考えてくれる。
まあ、目の前のこの人は彼氏ではないけれど。
前回の恋愛で、俺が君を守るよ。
親がわりになってあげる。嫌なこと全部から守るよ。
と言われていたのに
そんなんだからお前は愛されないんだよ!!
と怒鳴られた時に
一番守って欲しいのはお前自身からだったわ。
と気づいて以降、ろくに新しい恋には進めていない。
目の前の彼はいざしかし
この歌の歌詞みたいに愛してくれるのかしらね、
そう思ってマイクを握った。
まただ、
私とあなたの視線は確実に重なったのに。
見つめあって、火花が散ったのに。
まだあなたの瞳の奥の光に
手が届かない。
子供のころ、ホントにして欲しかったことって
なんだったっけ。
あー、思い切り甘えたかったのかも
あとはー、可愛いって言ってほしかったな。
それから、大切だよ大丈夫って抱きしめて欲しかった。
そういうの全部、
叶えられないまま時間ばかりが過ぎて
大人になってしまったから、
本当に大切で好きなものさえも
なんだか分からなくなってしまった。
好きかもなこの人のこと、
あーでもやっぱ私のこと好きじゃなさそう
傷つけられそう
やめようかなあ、
あ、もうこの人のこと好きじゃないから別れよー
でもやっぱり私のこと大切なのかも
一緒にいた方がいいのかなあ
そうやってずっと、どっちつかずで
大好きだよ!って胸を張って言うことも、
きちんと終わりにして嫌いになる勇気も
どちらも持ち合わせてなんていない。
いつからだっけ、こんな私みたいなひとに
愛着障害って名称が与えられたのは。
名前がついてしまったから、
この生きづらさも、
それのせいにしてしまえるじゃないか。
いつか変われますように。
誰かの力なんかじゃなくて
自分の力で。
きちんと歩けようになりますように。
あの時私のことを助けてくれた人は
誰だったっけ
あなたが私を作ったんだっけ
ああ、あの時からあなたが私の神様だったんだ
暗闇の中でひとつの輝きを放つ居場所に、
なってくれたんだっけ
美味しいってご飯を食べてくれたっけ
私のために車を出してくれたっけ
結局間に合わなくて2人で寄り道したよね
あ、そうだ、あなたがお腹を壊して……
ひとつも忘れたくない。
あなたの私を呼ぶ声も
私がご飯を食べるのを愛おしそうに見つめていたあの瞳も
頭痛いよ〜って泣いてる私を心配そうに撫でてくれた手も
あなたの香りも
あなたの落ち着いた声も。
なにひとつとして巻き戻し再生はできないけれど
大切な、大切な私の宝物。
けれど、私のことは早く忘れてね
私の声も、私の顔も、私の匂いも、私の愛し方も
なにもかもきちんと消してね。
そうして前に進んでね。
一瞬でもあなたの頭の中にいられて幸せだったから。
それだけで充分だったから。