I LOVE
『愛してる』なんて、簡単に言わないで。
I LOVE YOU
『私はあなたを愛してます』なんて
嘘つき。
満月。
今日は満月だ。
月の模様も肉眼で見れるほど大きくて近い。
冷たい風が頬を赤らめる。
白息が出る度に手を握る。
コンビニの灯りが私の目を輝かせる。
こんな時間まで開いてるのはネオンカラーの繁華街とコンビニくらいだろう。
入った瞬間からの暖かい空気と入店音が、心を躍らせる。
「いらっしゃいませ。」
もう聞き慣れた声だった。
緑色のカゴをとったとき、外はもうミッドナイトだった。
なんだか、この空間だけが時が止まっているような不思議な感覚。
少しの罪悪感を覚えながら、カップラーメンを手に取る。
ミッドナイトは、なんだか少しおもしろい。
高級なバッグにハイブランドのアクセサリー。
目の前に広がる光景は、キラキラ輝いた物ばかり。
最上階の高層タワマン。
窓から見える都会の景色と星空。
白のオシャレなシャツと黒のパンツを履いた彼。
シャツの着こなし方が少しセクシーで、脚の長さが際立つパンツが大人っぽい。
指にはめた指輪は、キラキラと光っている。
豪華な食事にふかふかのベッド。
広い浴槽と居心地がいいリビング。
暖かいライトとスピーカーから流れるジャズ。
彼のセンスと高貴な振る舞いに何度も胸が高まる。
私にとって、最高のプレゼントだ。
________________________
新しい麦わら帽子と約束のミサンガ。
いつもと何一つ変わらないただの畑。
雨漏り用のバケツが用意されてある家。
縁側から眺める田舎の風景と風の音。
いつもより少し綺麗な黒の横縞の服と黒のジーパン。
足首のミサンガは、畑の泥が少しついていた。
畑で採れた芋と人参が入った味噌汁。
浴槽の上には、錆びた折りたたみ式の風呂蓋が用意されていた。
彼のセンスは最高で、普通のおもてなしに凄く喜びを感じた。
私にとって、最高のプレゼントだ。
彼女と別れてから5年。
久々にパソコンを開き、SNSを覗いてみた。
インスタ、TikTok、YouTube。どの配信サイトを見ても彼女を見つけることはできなかった。
「やっぱり、無理だよなあ。」
俺の彼女は昔からSNSが苦手だった。
ずっと見る専としてネットを使っていて、アカウントはTikTokだけだった。
勿論、そのアカウントももう削除済みだった。
「諦めるか。。」
画面を閉じようとしたその瞬間、あるアプリが目に入った。
「……!Twitter…!」
俺は慣れた手つきでキーボードを打ち、検索欄に彼女の名前を打ち込んだ。
『@riri__ka03』
「アカウント」と書かれた欄をクリックすると、そこには見覚えのあるユーザー名が1つあった。
「…りりか!?」
それは、間違いなく付き合ってた当初に彼女が作ったTikTokのユーザー名だった。
アカウントを2度クリックすると、そこには彼女のプロフィールと投稿が並んでいた。
SNSが今も苦手なのか、プロフィールには「01 大学生」と書かれた文字が置かれていた。
俺は、彼女の短いプロフィールよりも先に、彼女の"過去の投稿"に目がいった。
「2017年…?」
彼女と別れたのは5年前の2018年だった。
さっきも言ったように、彼女はSNSが苦手で持っているアカウントはTikTokのアカウント、それも捨て垢だけだった。
疑問に思いながらも、彼女のアカウントを見つけたことに心が踊っていてすぐに画面をスクロールした。
『2017/8/7』
『今日は友達とプールに行きましたー👙💕
友達とお揃いの水着で泳いだよー!!』
そこには、彼女の肌が露出されている水着が拡大された写真が載せられていた。
『2018/9/10』
『もうすぐ秋とか早すぎ!Σ(Ꙭ )!
皆ハロウィンコスするの〜??』
『2019/1/9』
『彼氏がつまんない。』
そのつぶやきを見た瞬間、スクロールする手が止まった。
俺と彼女が付き合ってたのは2016年〜2018年の終わりまでだ。
彼女の言っている"彼氏"は俺じゃない。
「新しい彼氏…か?」
急いで過去の投稿から目を離し、上へとスクロールする。
『2021/5/6』
『やばい、彼氏が家に来た。』
『2021/5/7』
『結局ヤッただけ。酒飲んで帰ってった。片付け鬱』
『2021/6/18』
『当たり前だけど元彼の方が良かった。
戻りたい。』
彼女のいう元彼はきっと俺の事だ。
『2023/7/20』
『元彼にTwitterの垢教えてればよかった。
当時は恥ずくて言えなかったけど、DVされるよりずっとマシ。』
「DV…だと、?」
投稿を探っていく限り、昔から少しヤンチャな彼女は、SNSに露出した水着を載せて色んな男を釣っていたらしい。
その中で俺と別れてからホテルに一緒に行った男が今の彼氏だそうだ。
付き合って1年半が経つとき、DVや強制的に性行為を及ばれてTwitterで愚痴を吐いているようだった。
『2023/11/20』
「…?今日の投稿?
今更新されたのか?」
『2023/11/20』
『写真』
「写真」と表示された文字をクリックすると、そこには顔に痣が沢山できた彼女と眠っている彼氏、そして空の缶ビールが映し出されていた。
俺は恐怖と不安、見なかったことにしたいという気持ちで頭がいっぱいだった。
何故なら、何度も投稿で『元彼と復縁したい』というのを目にしたからだ。
助けなければならない気がしてならなかった。
額から流れくる汗と、自然とバツ表示に手を伸ばしてしまっている劣等感。
パタッ____
パソコンを閉じ、目の前の光景に目をやる。
「りりか、俺は悲しいよ。」
「元彼がいいだなんて言わせないよ。」
_____『速報です △△区に住む25歳男性(無職)が、監禁をしていたとみられる女性を殺害したとのことで近隣住民の通報により、逮捕されました。』
『容疑者は、取り調べに対して「元彼と自分の地位を交換したかった。寂しかったんだ」と言い、容疑を認めています。警察は、容疑者の自宅を家宅捜査し、遺体が見つかり次第捜査を中止するとのことです。』
寂しさは、時に人を狂わせる。
小さなソファに座りながら、スープをひと口飲む。
目の前の暖炉の炎がパチパチと音を鳴らす。
「…」
ハンモックがある西の窓に目を向けると、雪が積もり始めていた。
ガタッ___
建付けが悪い家だからか、少し吹雪になると本棚から本が落ちることが多々ある。
スープを飲み干すと、気付けばもう暮夜だった。
柔らかい木材でてきた食器の中にクリームシチューを入れる。
西の窓には、もう雪が積もっていた。
雪を待っている間にとっくに時間は過ぎていたようだ。
"雪を待つ"