張りつめた心が、破けてしまいそう。
この星空の下で悲しみを吐露して、
ずっと引きずっていた自分の物語を、瓦解させて閉じてしまおうと思う。
あるいは綴じてしまおうと。
ふたりでいれば何もいらないなんて、思ったことはなかった。
ふたりでいさえすれば、幸せだなんて思ったことも、なかった。
でも、ふたりでいることが大前提だった。
それは今も…
でも思う。
ふたりって、なんだろう?
ひとりってなんだろう?
私が私の中の鏡に君を写しているだけなら、何の意味もない。
この星空を鏡に写してもうひとつ持っていても、何にもならないように。
こんなにきれいな実物。
こんなにきれいな実物の君。
私が私のために利用出来ない本当の、本当の君だけが欲しい。
だから…
本当に君を観るために、私は私の物語を閉じる。
それもきれいだったけれど
この星空の下の、君にはとてもかなわないから。
どうしてこんなに、仲が悪いのかな。
いつも、いつも、ケンカしてる…
おばあちゃんの子どもたちは、みんなで嬉々として
ケンカしてる。
でも、みんな、本当に怒ってるんだ。
自分がいちばんに愛されたかったのに…って。
その人に愛を求めても無駄なのに。
おばあちゃんもお母さんたちと同じ立場だったんだから…
おばあちゃんだって、ひとりぼっちだった。
子どもたちを振り返る余裕なんてないくらい、真っ暗に、ひとりぼっちだった。
みんなそんなこと、わかっていたくせに。
………違う。
みんな、本当にわかっていなかったんだ。
だってそんなような孤独は、自分ひとりを屹立させてしまう。
誰も見えなくさせてしまう。
私も、見えなかったじゃない…
私もどれだけ、お母さんとケンカしたか。
そして、おばあちゃんの子どもたちは、自分の子どもたちを曲がりくねった形で愛した。
どんなことになるかを、少しも考えないで。
でも、それでもいい。
続いて来た、「悪い孤独」は、ここで断ち切られて終わるから。
有無を言わさずスッパリと、私の分だけは私が終わらせるから。
私もまた、人の愛し方がわからない。
けれど、それでいい。
わからなくても、終わらせることができるから。
一瞬一瞬を、自分の苦痛ではなく、
流れてゆく時間だけに同調させて、
今だけを生きる。
そうすれば、この世の理由(わけ)のわからないものは終わらせることができる。
愛に似て愛じゃない理由(わけ)のわからないものはすべて、終わる。
そうしたら、まだ誰も知らないところへ行けると思う。
誰も知らないからまだ何もない、空っぽの希望の場所ヘ。
だからそれでもいい。
…それは、振り切るためにあったことだ。
私が生きるためあったことだと、私が意味を与えたのだから。
言いたいことはひとつだけ?
ひとつもないわ。
会いたい人は何処にいる?
…いない。
ここから何処へ行きたいの?
何処にも行きたくない、行かない!!
言いたいことはひとつだけ?
ひとつもないって言ってるでしょう!
ないないない…とひとつだけ。
君はずーっと、繰り返す。
…そんなふうに言わ・ない・で。
…結局ここにも、ない、がある…
バサバサ雨が降った後のきれいな空氣のなかで、
すっかりがっかりしてしまっている私と、あなた。
とても楽しかったはずなのに…ぎゅっとふたりで手をつないで、ほとんど泣きそうになっている。
楽しかった1日が終わってしまうから?
そうじゃない。
もう、会えないわけじゃないんだよ?
…わかってる。
じゃあ、何で?
お互いがお互いの目をのぞき込む。
まるで、自問自答するみたいにたずねあう。
わかっているよね?
繋いだ指を少しずつ離しながらゆっくり、ゆっくり、一歩一歩、私達は離れてゆく。
わかっている。
この大切な「今日」の外側に広がる真っ暗な世界。
この大切な「今日」が変わらずにやって来てしまう、約束の世界…。
そうだ、約束をしてしまったんだ。
私達は絶対に変わらないって。
そしてその約束は守られなくてはならない。
私達は、そう決めてしまったから。
悲しくて私達は今日も雨の中を泣く。
嬉しくて私達は今日もまた明日のふりした「今日」が来るのを待ちわびる。
約束は破らない。
やって来る「今日」のためにまた私達は離れて歩き出してゆく。
そして、「また明日ね」と、雨の中を駆け出してゆく。
「大切なものなんてないし…」って言いながら、心の中で指折り数えてる。
(いくつあるんだよ…)なぁんて思いながら、
「ないよ」って言ってる。
…何、笑ってんのよ。