記憶
令和より前
子供の成人祝い&親業完遂記念と称して
家族旅行をした
海を超えた遠い街へ
それは若い頃住んでいたアパートを探し当て
そこから思い出の地を辿る旅だった
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記憶を頼りに通りを探す
通りの名前は…っと 古い手紙で住所を確認
そうそうに間違いないこの小道だ
目を閉じ20年の時を遡る
角には郵便局 バス停の向かいにはパン屋さん
この坂道を上り切ったら教会と公園があってね
坂の途中に そう右側がアパートの入り口で…..
記憶の地図がそのまま目前に現れた
息子は当時5歳くらいだったが部分的記憶は私より確かだ
先頭に立ちキョロキョロしていた彼が私達を見下ろしながら言った
母さんやっぱりここだ!
2人で留守番の時にね 僕の言うことを聞かずに妹が通りへ出ちゃったんだよ
お母さんが外に出ちゃダメって言ってたから
僕は随分悩んだよ
でも結局妹が心配で追っかけた….
生真面目で優しい彼らしいエピソードを
語りながら少し前を歩く息子
あったよここだと 難なく入り口を指差した アラ5歳の男の子に案内されちゃったね私達
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お次は娘と私 お目当てのショッピングだよ
まずは行きつけだったスーパーへ
どでかいカート🛒を娘に任せ一歩中へ入る
一瞬にして外国感
お母さん わたしこの匂い知ってる懐かしいよ
そう?この香辛料 香水あれこれ混ざった独特の香りって異国にいるって実感するわ
懐かしいってことはこのスーパーの匂いをお覚えてたんじゃない すごいねえ〜
だってあの頃まだ紙おむつだったよ(笑)
これまた2歳児のニオイ記憶にビックリ感激
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お気に入りだった食材や定番のおやつを手に入れ 懐かしい界隈をひとしきりぶらぶら
過去旅 初日はめでたく終了
それにしても古い街並みがそのまま現存していたのは不思議でラッキーだった
タイムスリップしたかの様に
スーパーの向かいの銀行も
そのまた左側の郵便局もその場所のまま
あっ 黄色いラッパのマークだ
わぁ〜懐かしいと思った瞬間
記憶の彼方から
赤鬼のような大男がひょっこり顔を出した
怒鳴るような大声の苦手な局員さんだ
船便が少し重量オーバーだと
ガンとして受付てくれなかったよねー
怖いし泣く泣く荷物を持ち帰ろうとしていたら
傍にハサミと紐をそっと置いてくれて
ほらって無言で促して
でもならぬものはならんのだと….
優しいんだかなんだかわかんなかったよ
真っ赤な顔した赤毛のおじさん
なんで出てきたの??
記憶って人には取捨選択できないんだねきっと
もう一度 会いたい
もう二度と 会わない
この間に何があったの?
いや足りなかったのかもね
人は些細なstoryに大事を左右されるよね
このままでいいの?
望まない道を選んでしまいそうな今こそ
落ち着いて考えてそして心が動く方へ
まだ間に合うよ
三度目の正直….
互いの気持ちが残っているうちにね
よーく思い出して
散りばめられた伏線を回収して
ハッピーエンドに変えていくんだ
君たちのstory はまだ途中だってことを
掟を破って伝えに来たんだよ
これっきりだからね
もう二度と…….
40(41)もう二度と
雲り
二人だけの合言葉 まだ覚えてくれてるかな
雲(うん)
り(了解)
思い切ってメールした
しばらくぶりー会いたいな
明日はどう?
ピコン✉️
雲り
くもりだって!やったー♪
子供の頃よく口ずさんでたな
この韻がたまらないよね
皆んな大声でうたってみー
そしたらさよならしたい事物人 思い浮かべて
替え歌バージョン いくよー イェーイ✊
はい グッドバイバイ!
じゃあお先に〜
🎶
グッドバイ グッドバイ
グッドバイバイ
とうさんおでかけ てをあげて
でんしゃにのったら
グッドバイバイ
グッドバイ グッドバイ
グッドバイバイ
はらっぱであそんだ ともだちも
おひるになったら
グッドバイバイ
グッドバイ グッドバイ
グッドバイバイ
さんびきうまれた いぬのこも
よそへあげたら
グッドバイバイ
グッドバイ グッドバイ
グッドバイバイ
まちからいらした おばさんも
ごようがすんだら
グッドバイバイ
グッドバイ グッドバイ
グッドバイバイ
あかいゆうやけ おひさんも
しずんでいったら
グッドバイバイ
bye bye……
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(38)君とみた風景
視力を失って久しい君が海をみたいと言った
僕は君をおんぶして小さな岬の突端へ進む
足元が砂地にかわったよ
ほら松の林を抜けた先は僕たち二人きりだ
潮騒が聞こえるかい
海風が君の袖を掴んで僕から引き離そうとする
潮の匂いがする
海にいるのね
そうだよ
波頭が白く泡立ち遠くまで続いているよ
海の青と空の青が交わった先は
真っ直ぐな水平線
穏やかに凪いだ一本の線
思い出せる?
ねえその先には何があるのかな
あなたには見える?
もちろん
私も
君と二人水平線を駈けているよ
あなたと水平線を駆けているわ
ハハハ ふふふ
そしてぐるりひと周りして又ここにやって来る
⏳⌛️ ⏳⌛️ ⏳⌛️
砂地に変わったよ
松の林を抜けた先が例の場所
あら 潮の香りがしてきたわ
ねえ海が見える?
うん このグラス👓があればね
二人で駆けた水平線もくっきり見えるわ
もちろんあなたの背もよ
網膜投影眼鏡に携わって下さっている方々へ
感謝を込めて🍀
手を繋いで
漆黒の闇
今時の日本でこんな夜ありえないね
ここはケアンズ オーストラリア
南半球なんだから南十字星を頼りに…..
とはいかなかった話
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その日の宿はエアビーでとった部屋
苦労して探し当てたのは広いお屋敷ではなく
その敷地の一角にあるコテージだった
夕食はついていないよねここ
途中カーブあたりにレストランがあったよ
歩いていけるんじゃない?
住宅街だし危険でもないか
散歩がてら行ってみる?
気軽にふらりと車道に出て右へ
さっき自分達が車で来た方へ向かった
カーブを過ぎた辺りだから遠くないよ
わかった
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この辺りとんでもなく広い敷地ばかりだよー
そんな呑気な事を言って通り過ぎたのはまだ日の落ちる前のこと
日が暮れて驚いたのなんのって広すぎる敷地の母屋の灯りは車道から見えないのだ
車はほぼ通らない 家の灯りも届かない
街灯までないなんてねどうなってるの?
怒りというより常識の怖さに愕然としたね
おまけに星空までない悲運
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何これ暗闇よ
どっち向いているんだかわかんない
ねぇお先真っ暗って言葉 道路も見えない今にピッタリじゃない スゴっ(笑)
ホント 何にも見えないねー
そのうち目が慣れるんじゃないかと手探りで2、3歩進んだが 諦めた
だって車道の真ん中へ向かっていたかもなんだよ私達
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携帯のライトを使う?
帰りのバッテリー大丈夫かな
じゃとりあえず俺ので行こう
この手に掴まって
彼の手が映し出された瞬間手すりを掴むように無機質に握った ルビー婚です私達
(暗闇だとヨチヨチ歩きになっちゃうでしょ)
私達は2人きりの夜道をヨチヨチヨチヨチ
道路に照らし出された白線だけを頼りに進んだ
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行けども行けども灯りはない
疲れて心細く思った瞬間だった
半歩前行く人の手の温もりが沁みてきた
なんだかなあ
手を繋ぐなんてハネムーン以来いつぶり?
いやー過去より未来のいつだろう
この人に支えられてヨチヨチ歩いている自分が闇の中にはっきり浮かんだ
そして私はその手の温かさに自分を委ねている
今晩の事は来たる日のシュミレーションなのかも
煌々とした日本じゃ手を繋ぐなんてここ数年ははありえないもの