眠れないほど興奮することってあるんだな。
あ、僕、明日彼女と遊びに行くんですよね。多分、それが楽しみすぎて寝れないんだと思うんだ。
僕はベットの中に入り、心を躍らせながら目を瞑った。
『眠れないほど』
あなたと一緒にご飯を食べに行きたい。
あなたと一緒にお花畑に行きたい。
あなたと一緒に楽しくお喋りをしたい。
あなたの隣に居たい。
そんな未来があると思ってた?
今、あなたの隣には、美人で素敵な女性がいて、私の隣には、小汚いおっさんがいる。
きっと、あいつは早くして結婚でもするんだろう。
じゃあ、私は?
ネットで自分を売りに出して、おっさんと体を重ねて、金を稼いで。
毎日毎日、偽りの私を提供している。
嗚呼、あなたみたいな美しくて楽しい人生は私にはやってこないのだろうか。
そんなこと願ったって無駄なのは分かっている。
「…あ、そろそろ行かないと」
私は今日も、夜のネオン街へと消えていく。
『夢と現実』
いつもの学校の帰り道。私は親友の結菜と肩を並べて帰っていた。
「最近、寒くなってきたよね〜」結菜がそういう。
「分かる。そろそろ手袋とかもつけないと。」
他愛のない会話。しょうもない話題でも、結菜と居れることが嬉しくてたまらなかった。
いつもの分かれ道、結菜はこう言った。
「…紗夜」
「ん、何?」
「大好き」
突然結菜がそう言い出した。変なことを言い出すのはよくあったから、適当に返そうとしたその時。
「さよなら、紗夜」
私は嫌な予感がした。
なにか嫌なことが起こりそうな気がした。
気づけば、結菜の手を握っていた。
「…何?」
私は声が出なかった。嗚呼、こういう時に声が出ないなんて、一体何をしてるんだか。
一番の親友を失いたくない自分の勝手な思いで引き止めて、声が出なくて。
「さよならは、言わないで、」
やっとでた言葉がその一言だった。
「結菜が何しようとしてるかわかる」
「だったら何?何を言いたいの?」
「死なないでほしい」
今自分の言っている言葉は結菜にとって地獄のような言葉だってことくらいわかっている。
でも、わたしは一人の親友を失うのは嫌だった。
「…そっか。わたし、紗夜にめっちゃ愛されてる」
一言言うと、結菜は制服のポケットから何か光るものを取り出した。
「紗夜の言ったこと、約束できないわ」
「ちょ、結菜!」
もう、遅かった。
「さよなら。好きだった」
結菜の首から出る赤い液体。
酷く嬉しそうな表情。
手にはそれほど大きくないナイフ。
地面に横たわった結菜の姿。
何も言葉が出なかった。
目の前で人が死んだ。その事実すら受け止めきれない。
髪を撫でる。頬を撫でる。唇にふれる。
結菜の視線と一緒になり、唇を重ねる。戻ってきやしないのに。
「…私もだよ」
そう放ったときには、彼女の存在はもう既になくなっていた。
『さよならは言わないで』
『光と闇の狭間』
私達は光と闇の狭間で生きている。
人々は皆、光へ行きたがる。
なぜなら、この世界は地獄そのものだから。
ここから抜け出したいと思っても、「明日、明日」と言ってここへと居させられる。
「貴方には希望がまだある。」そう諭してここに居させようとする。
そうやって生き地獄を味わされているここが地獄じゃないという方が可笑しい。
だが、ここから抜け出しても、人々はすぐに自分のことを忘れ、他の人の所へと向かう。
だから私は今日も息を吸う。