いつもの学校の帰り道。私は親友の結菜と肩を並べて帰っていた。
「最近、寒くなってきたよね〜」結菜がそういう。
「分かる。そろそろ手袋とかもつけないと。」
他愛のない会話。しょうもない話題でも、結菜と居れることが嬉しくてたまらなかった。
いつもの分かれ道、結菜はこう言った。
「…紗夜」
「ん、何?」
「大好き」
突然結菜がそう言い出した。変なことを言い出すのはよくあったから、適当に返そうとしたその時。
「さよなら、紗夜」
私は嫌な予感がした。
なにか嫌なことが起こりそうな気がした。
気づけば、結菜の手を握っていた。
「…何?」
私は声が出なかった。嗚呼、こういう時に声が出ないなんて、一体何をしてるんだか。
一番の親友を失いたくない自分の勝手な思いで引き止めて、声が出なくて。
「さよならは、言わないで、」
やっとでた言葉がその一言だった。
「結菜が何しようとしてるかわかる」
「だったら何?何を言いたいの?」
「死なないでほしい」
今自分の言っている言葉は結菜にとって地獄のような言葉だってことくらいわかっている。
でも、わたしは一人の親友を失うのは嫌だった。
「…そっか。わたし、紗夜にめっちゃ愛されてる」
一言言うと、結菜は制服のポケットから何か光るものを取り出した。
「紗夜の言ったこと、約束できないわ」
「ちょ、結菜!」
もう、遅かった。
「さよなら。好きだった」
結菜の首から出る赤い液体。
酷く嬉しそうな表情。
手にはそれほど大きくないナイフ。
地面に横たわった結菜の姿。
何も言葉が出なかった。
目の前で人が死んだ。その事実すら受け止めきれない。
髪を撫でる。頬を撫でる。唇にふれる。
結菜の視線と一緒になり、唇を重ねる。戻ってきやしないのに。
「…私もだよ」
そう放ったときには、彼女の存在はもう既になくなっていた。
『さよならは言わないで』
12/3/2022, 2:08:33 PM