ないもの?ねぇ、ダーリン
あなたにないものなんてない
失敗して端っこが焦げた目玉焼きも
四角いお部屋をまぁるくお掃除するのも
駅の改札をクレカで通ろうとして止められちゃうのも
不機嫌な膨れっ面も
あれもこれも欲しいくせに、結局手が出せない臆病なとこも
全部、全部、
大好きよ
お題
ないものねだり
お腹が空いてぱっちりと目が開いてしまった午前1時。
夕食はしっかりと食べたのに、今日はちょっと動いた量が多かったからだろうか。
もう一度眠ろうと目を閉じてみたけれど、自覚してしまった空腹感が身を責める。
ああ、お腹鳴りそう。
仕方なしに布団を跳ね上げ、真っ暗な部屋をそっと抜け出した。
パジャマにカーディガンを羽織っただけでもそれほど寒くない季節になった。
常夜灯が薄く照らす廊下はしんと静まりかえっている。
いつもは賑わうロビーを抜け、玄関から外へ出るとふわりと風が髪を揺らした。
そのままゆっくりと歩いて自動販売機の並ぶ通りへ向かう。
そこだけピカピカと明るくて、なんだか宙に浮いてるみたい。
周りを見回しても誰もいない。
聞こえるのは風が梢を揺らす音と微かに自販機の唸る音だけ。
不意に襲われる寂寥感。
空いているのは、お腹だけ?
小銭を入れて、自販機のボタンを押す。
がこんと落ちて来たのはいつもは選ばないコーヒー。
あたたかい缶を両手で包み込んで、それからプルタブを引き上げた。
ふわりと香る、懐かしさ。
口に含んで、顔を顰める。
「にが、い、な」
ひとりごちて、手の中のコーヒーを見つめた。
君から香るコーヒーの匂いは、好き、だったよ。
お題
好きじゃないのに
もうすぐ慣れるはずだった左側
こそばゆい感情
確かな温度
なのに、
なんでなくなっちゃったんだろう
今もまだ強がりばかりの自分は
空回りしているばっかりで
言いたかったことも言えないまま
一人でここに居る
ぽつり、
一粒、落ちた
おかしいな
今日は一日中快晴だって聞いたのに
胸の前で握りしめた拳に
雨がぱたぱたと落ちていく
君が言ってた
天気予報なんか、当てにならないね
くしゃりと笑って仰いだ空は、
どこまでも青だった
お題
ところにより 雨
同じ毎日を繰り返しているのだと思っていた。
いつも眠れば巻き戻るあの子の寝顔を見ながら溢れる嗚咽を必死に噛み殺してきた。
目覚めれば同じ朝で、そして今日も繰り返す。
最近は随分と伸びた身長に私の成長を疑う素振りを見せるあの子の意識を逸らすことからはじまり、齟齬があれば取り繕いながら夕方には最早ルーチンと化した個人練習の見守りをする。
同じところで失敗する、いつも同じ繰り返し。
それを見ながら何もできない自分がもどかしい。
「バカみたい…」
言ってあげられない。
それは無意味だ、と。
眠ればまた昨日に戻るあの子には、どんなに練習しても意味はないのだと。
そんなことより美味しいものでも食べよう、暖かく甘いものでも飲もう、と。
言ってあげられない。
あれは、私のためだから。
一途に、直向きに、私を思うあの子の気持ちを複雑な想いで受け止める。
いつか、きっと。
次の日に歩き出せるようにしてみせるから。
そんな願いを抱いて空回る日々に、イライラしたりヤキモキしたり、焦ったりして。
自分一人で頑張っているような気がしていたし、実際そう思っていた。
けれども。
絶対的大ピンチに、あの子は日々の成果を出してみせてくれた。
進んでいるじゃないか。
ちゃんと、進んでいるじゃないか。
毎日同じ繰り返しを積み重ねて、ジリジリと。亀より遅い歩みではあるけれど。
「バカみたい!」
ホント、私、バカだ。
悲劇のヒロインになったつもりだった?
変わらないあの子を置き去りに進んでしまう自分のことに酔っていた?
変わらないあの子を憐れんでいたの?
違うでしょう。
私は私。
ヒロインなんかじゃない。ヒーローでもない。
私は世界征服をする女、誰かの正義なんて糞食らえだ。
「いくよ!」
そうだ。堂々と胸を張れ。
一人でも明日へと歩き出せ。
いつかあの子が走り始めたときに、ずっと前にいて両手を広げて待っててやるんだ。
そして、また始めよう。
二人で一緒に、世界征服を!
お題「バカみたい」
ヘブンバーンズレッド
山脇ボン・イヴァール