同じ毎日を繰り返しているのだと思っていた。
いつも眠れば巻き戻るあの子の寝顔を見ながら溢れる嗚咽を必死に噛み殺してきた。
目覚めれば同じ朝で、そして今日も繰り返す。
最近は随分と伸びた身長に私の成長を疑う素振りを見せるあの子の意識を逸らすことからはじまり、齟齬があれば取り繕いながら夕方には最早ルーチンと化した個人練習の見守りをする。
同じところで失敗する、いつも同じ繰り返し。
それを見ながら何もできない自分がもどかしい。
「バカみたい…」
言ってあげられない。
それは無意味だ、と。
眠ればまた昨日に戻るあの子には、どんなに練習しても意味はないのだと。
そんなことより美味しいものでも食べよう、暖かく甘いものでも飲もう、と。
言ってあげられない。
あれは、私のためだから。
一途に、直向きに、私を思うあの子の気持ちを複雑な想いで受け止める。
いつか、きっと。
次の日に歩き出せるようにしてみせるから。
そんな願いを抱いて空回る日々に、イライラしたりヤキモキしたり、焦ったりして。
自分一人で頑張っているような気がしていたし、実際そう思っていた。
けれども。
絶対的大ピンチに、あの子は日々の成果を出してみせてくれた。
進んでいるじゃないか。
ちゃんと、進んでいるじゃないか。
毎日同じ繰り返しを積み重ねて、ジリジリと。亀より遅い歩みではあるけれど。
「バカみたい!」
ホント、私、バカだ。
悲劇のヒロインになったつもりだった?
変わらないあの子を置き去りに進んでしまう自分のことに酔っていた?
変わらないあの子を憐れんでいたの?
違うでしょう。
私は私。
ヒロインなんかじゃない。ヒーローでもない。
私は世界征服をする女、誰かの正義なんて糞食らえだ。
「いくよ!」
そうだ。堂々と胸を張れ。
一人でも明日へと歩き出せ。
いつかあの子が走り始めたときに、ずっと前にいて両手を広げて待っててやるんだ。
そして、また始めよう。
二人で一緒に、世界征服を!
お題「バカみたい」
ヘブンバーンズレッド
山脇ボン・イヴァール
3/23/2024, 6:12:03 PM