#8

Open App

お腹が空いてぱっちりと目が開いてしまった午前1時。
夕食はしっかりと食べたのに、今日はちょっと動いた量が多かったからだろうか。
もう一度眠ろうと目を閉じてみたけれど、自覚してしまった空腹感が身を責める。
ああ、お腹鳴りそう。
仕方なしに布団を跳ね上げ、真っ暗な部屋をそっと抜け出した。

パジャマにカーディガンを羽織っただけでもそれほど寒くない季節になった。
常夜灯が薄く照らす廊下はしんと静まりかえっている。
いつもは賑わうロビーを抜け、玄関から外へ出るとふわりと風が髪を揺らした。

そのままゆっくりと歩いて自動販売機の並ぶ通りへ向かう。
そこだけピカピカと明るくて、なんだか宙に浮いてるみたい。
周りを見回しても誰もいない。
聞こえるのは風が梢を揺らす音と微かに自販機の唸る音だけ。

不意に襲われる寂寥感。

空いているのは、お腹だけ?

小銭を入れて、自販機のボタンを押す。
がこんと落ちて来たのはいつもは選ばないコーヒー。
あたたかい缶を両手で包み込んで、それからプルタブを引き上げた。
ふわりと香る、懐かしさ。
口に含んで、顔を顰める。


「にが、い、な」


ひとりごちて、手の中のコーヒーを見つめた。

君から香るコーヒーの匂いは、好き、だったよ。






お題
好きじゃないのに

3/26/2024, 5:46:41 AM