昔から物を捨てられない性分だった。
壊れたおもちゃ、どこのものか分からない紙袋、死んだ犬の首輪に何かわからない落書きをした紙まで、どこからどう見てもいらないであろうものでも捨てられずに取っておいてしまう。……でも、こんなものまで残してしまうだなんて。
元彼にこっぴどく振られたのが3日前。贔屓目でみてもかなり仲のいいカップルだったと思う。友達にもお似合いだって言ってもらえたし、お互いに手に取るように相手の気持ちがわかった。
なのに、突然、なんの前置きもなく別れを告げられた。なんで?なんで?どうして?何を聞いても彼は「ごめん」と返事をしただけだった。
別れてからはLINEに既読すらつかない。そうなってやっと捨てられたんだと自覚し始めた。
こうなっちゃったらもう、彼に貰ったものは全部捨てよう。そう思い立って仕分けを始めたはいいものの。
彼にもらった靴、お揃いで買ったコップ、誕プレにくれた大好きなキャラのキーホルダー……全部が全部大好きで大切な思い出が甦ってきて捨てられない。しっかりと分別していたはずなのにいつの間にか「必要」の箱がぱんぱんに詰まっていた。気がつけば結局全部「必要」の箱に詰めて仕舞っていた。
そこまでしてようやく私は物だけじゃなくて彼への気持ちすらも捨てられず大切に仕舞ってしまったのだと気がついた。
……こんなことになるのなら、ものを捨てられるように特訓しておくべきだった。今更そんなことを考えてももう、後の祭り。きっと私はこれからも彼への気持ちをぶら下げたまま生きていくのだろう。
ぼくが小さい頃、母がたまに大きな教会へ連れていってくれた。もう10年以上も前の事だからあまり多くは覚えていないけれど、2階にたくさんの楽器が置いてありそれを自由に弾くことができたことだけは今でも鮮明に覚えている。
思い返せば、今のぼくの音楽好きはあの時身体に刻まれていたのかもしれない。曲も弾き方も何もわからないなりに適当に音を奏でるのはとても楽しく、気持ちが良かったのだ。
引っ越した今でも街で教会を見かけるとあの楽しかった楽器演奏や綺麗な鐘の音を思い出す。
昨日は年甲斐もなくわくわくして早く寝てしまった。そのせいかまだ明け方だというのに目が覚めてしまった。ダラダラしていても仕方がない、諦めて起きるか……と意を決した瞬間。遠くから足音が近付いてきて、驚いた私はとっさに寝たフリをした。
その足音が私の部屋の前まできたと思った瞬間。ガチャリ、ノブを開ける音が聞こえた。そのまま迷いもせず近づいてきた足音はベッドの側で止まり、ガサガサと何かをいじる音に変わる。
少しだけ気になって薄く目を開けると、赤い服に白い立派な髭を蓄えた男が袋をまさぐっている。起きていることに気付かれたくなくて私はそっとまた目を閉じた。
私が起きていることになど気が付いていない男は持ち込んだ物体をおもむろに枕元に置いた。
男が去った後、男の置いた箱の中身を見ると私の欲しかったゲーム機やゲームソフトがこれでもかと詰まっていた。
「高校生にもなってサンタさんがくるのウチくらいだよ〜。サンタさん、私の年齢勘違いしてるんじゃないかなぁ。」
「よかったじゃないか。きっといい子にしてたからサンタさんが特別に、ってくれたんだな。」
「なにそれ〜。」
まさかまだ私がサンタを信じてるなんてパパも思ってないはず。だけどこうして毎年くれるのは私がいい子だから、って思ってもいいかな。
目が覚める前にプレゼントを配布しそびれたドジなサンタさんへ。いつもありがとう。
桜をこの場所で見るのは何度目だろう。
昔はあんなに春が来たと喜んだのに、今は春が来たと感じるのは苦しい。それは私に残された時間がまた減ったと告げているから。
「どうして私だったんだろう」
そんな問いをいくら投げかけたところで時間は答えてはくれない。ため息をつきまた窓の外に目をやれば、さっきまで咲き誇っていた桜は風にあおられ空に舞っていた。
その儚く散っていく様はまるで自分のように思えた。