2次会を開く予定だけど来られますか?
突然、LINEに新しいトークが増えてメッセージが来ていた。
どうやら友人が結婚するらしい。
式は身内で行うとのことだ。
あまり会う機会はなかったが、私としては貴重な関係の一つだったため、誘ってくれたのは素直に嬉しかった。
だが、私は断ろうとしていた。
理由は単純だ。
余裕がなかったからだ。
金銭的にも、精神的にも、ましてや社会的にも落ちぶれてしまった私のような男が行っても、どんな顔で祝福すればいいのだろうか。
心から祝うことができるだろうか。
とはいえ、正直に吐露してしまうのも気が引ける。
しかし嘘も吐きたくないうえ、淡白に断って冷たく思われてしまうのも嫌だった。
他の誰かの用事なら何度も断ってきたが、ここまで悩んだのは初めてだった。
私は、良き友人だっただろうか?
ふと思い返してしまった。
覚えている限り何もしてあげられなかった。
それどころか、迷惑をかけた記憶しかない。
悩みを聞いた時も、気の利いた言葉もかけてあげられなかった。
せっかく会いに来てくれても、もてなすことも見送ることもしなかった。
そうだった、ごめん。
本当にすまない。
私には友人を名乗る資格がない。
そっとスマホを落とした。
……
LINEを開き、トークの一覧を下の方にスクロールする。
それと思しきものを見つけた。
後ろ姿のサムネイルが、まだアカウントが生きていることを示している。
あれから5年が経つ。
今でもトークはあの時のまま、彼女の苗字だけが変わっていた。
~1件のLINE~
お金で買えないものもあるとか
お金だけあっても虚しいとか
お金がなくても幸せだとか
よく考えてみてよ
お金を求めてはいけない理由なんて
一つもないじゃない
生きるためにお金は必要だよね?
じゃあより良く生きたいと思うのは強欲なの?
身の丈に合った生活が一番?
じゃあその身の丈は誰が決めるの?
もし
お金より大事なものがあったとして
いざという時、守れるの?
~お金より大事なもの~
君は今どこで何してるんだろう?
君が私にとってそうであるように
私も君にとってそう思われる存在だったら嬉しいな
~君は今~
やあ、10年前の私
どうせくたびれているんだろう?
そんな君が少しでも元気になるよう良い事を教えてあげよう
この10年、君が想像もできない経験をたくさんしたよ
どれも楽しかったなー楽しみにしておくといい
まあ、それなりに大変なこともあったけど
ようやく人生というものが分かってきた気がするよ
だから焦って答えを出す必要はない
自分のペースでいいんだ、のんびりはしすぎるなよ?
慌てず全力で頑張れ
内容がアバウトすぎる?
具体的に書くと上から怒られちゃうからなー
まあなんとかなるさ
こんな手紙送るくらいだからね
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読み終えると私は特に感慨もなく手紙に封をし直し、
そのままゴミ箱に放るようにポストへ投函した。
10年前の私へ
~10年後の私から届いた手紙~
A:ここにある花でゲームをしよう
B:花ってこれ……それにこんなに……
A:全部で144本あるから1回で25本まで交互に取って最後の1本を取った方が負け
B:そういうやつね。まあいいわよ、先攻は?
A:ジャンケンポン!よし!じゃあ俺からね
B:あ!いきなり!しかもグー!?
A:じゃあ最初は12本で
B:ってちょっと!あなた本気?誘ってきたのはそっちでしょ?
A:俺はいつだって本気だよ?
B:……そうね、あなたの本気に付き合ってあげるわ。私は1本
A:あ、君の花はこれに入れてってね。はい3本
B:えっと、23本。これ元々入れてたやつでしょ?
A:ああ、大きくて部屋に入れるの大変だったよ。6本
B:20本。もう、こんなにあっても枯らしちゃうわよ
A:それもそうだね。8本、後でどうするか考えよっか
B:なにそれ、もう少し後先考えてほしいわね。18本
A:うーん。5本、ドライフラワーとか?プリザーブド加工っていうのも聞いたことがあるよ
B:はいはい、考えておくわ。21本
A:1本
B:25本、はい私の勝ち。あなたの本気ってなんだったの?
A:俺が本気って言ったのは今君が持ってるバラの花束のこと
B:はあ、あなたって本当に回りくどいわね。私が気が付かないと思ったの?
A:え?もしかしてバレてた?
B:バレバレ。あなたのことだもの
A:お見通しだったかコワイコワイ
B:でもジャンケンはどうやったの?
A:君なら咄嗟の時グーは出さない。チョキを出すでしょ?
B:なんだ、お互い様じゃないの
A:あの、それで答えは……
B:あら?もうとっくに答えてるじゃない
A:え?ああそういうことか!って君も同じじゃないか!
B:ほら、全部まとめて早く行きましょう?花が萎れちゃうわ
~花束~