「え、うちもあのサービスやるんですか!?」
「しょうがないよー、上が急にやる気になっちゃってさ」
銀河にたゆたう星々を扱う事業者の中には、
「願いを叶えるサービス」を提供する物好きな組織もある。
下に付いている者はさぞかし手を焼いていることだろう。
「そもそもエネルギーに余裕あるんですか?」
当たり前だが願いを叶えるには膨大なエネルギーが必要だ。
そして、そのエネルギーは星に住む民衆による祈りによって集められる。
つまり、祈ってはもらうがギリギリ叶えられない塩梅で条件を設定する必要がある。
集めるエネルギーよりも叶えるエネルギーが多くなっては立ち行かなくなってしまうからだ。
最大手である流星サービスの「流れ星に願い事を3回言う」というのは、現実的ではないが夢のある絶妙なラインといえる。
条件を変えずに速度で難易度を調整できる点もよくできている。
「余裕あるわけないでしょ、カツカツだよー」
流星サービスが好調なのは、潤沢なエネルギーと手広いサービス、そして流れ星という大きな武器があってこそだ。
まず我々の管轄は月とその軌道、つまり白道の周辺である。
当然流す星なんてないし、月を扱うとなるとサポートは地球という辺境の星しかなくなる。
しかも聞いた話では、地球では願い事といえば星がメジャーになっていて、月の知名度はかなり低いといえる。
上手くいく通りがない。
我々は上の気まぐれ、ハズレくじを掴まされたわけだ。
「そういうわけだからよろしく」と上司ももういない。
とはいえ、報告ができるくらいには体裁を整えなくてはならない。
その後、新月限定で願い事を受け付け、定期的に抽選で叶えるという方法を採用し、知名度こそ低いが継続できる程度には上手く定着されることになる。
すぐ終わると思っていたのに、何だかんだ面白がってくれている。
回るだけの球体のどこに神秘性を感じるのか、この星の民衆の感性はよくわからない。
~月に願いを~
不思議な世界だった。
そこでは直視できないほど眩い球体が頭上に見えるという。
水滴が無数に落ちてくる"雨"という現象もあるようだが、
ここではたまにしか起こらないらしい。
他にも、
見えない何かが全身に吹き付けられるような感覚を覚えたり、
雨の時に一瞬視界が明るくなったと思えば轟音が鳴り響いたり、
水の代わりに雨粒と同じくらいの大きさの氷が降ったりする。
最も驚いたことは、
これらの不可思議な現象がどこの世界でも見られるということだ。
多少の偏りはあるが、時が経てば何らかの変化を見せるのだ。
気付いた時、私の中で何かが変わってしまっていたのを感じた。
ここは不思議な世界。
常に変わらず淡々と水滴が地面を打ち続ける世界。
趣も面白みも何もない退屈な世界。
そして、私の帰る場所。
~いつまでも降り止まない、雨~
不安なんてないあの頃が一番幸せだった。
しかし、大人になってそのツケが回ってきている。
能天気に流され生きているお前は、
その足りない頭でもっと自分や未来の事を考えた方がいい。
お前の想像と違って残念なくらい大人は自由ではない。
だが、想像もつかないくらい自由度は高い。
だから今のうちに悩んで、学んで、挑戦しておけ。
すぐに諦めるな。周りに流されるな。
大丈夫、お前の強さは私が一番よく知っている。
もし、大人になって人生に失敗したと感じることがあったら、
その時は、一緒に酒でも飲もう。
~あの頃の不安だった私へ~
自分が駄目な人間だと自覚する度に自分が嫌になる。
不出来な理由をもう何百周も考えた。
結論は全部同じ。自分が悪い。
でも自分が悪いのは自分のせいじゃない。
それで下らない堂々巡りに疲れたら、寝る。
寝起きはいつも最悪。
欲しいものと欲しかったものがぐるぐる頭を回ってる。
手に入れる方法を飽きるまで考えて、
結局何もかもが手遅れに感じて終わる。
潔く生を諦める度胸があるはずもなく、
けど全てを諦めて受け入れることもできない。
起きたら子どもの頃に戻ってたらなとか、
起きたら物凄い才能に目覚めてたらなとか、
そんな馬鹿げたことに思いを馳せたところで、
非情にも時間は戻らないし、
残酷にも自分は自分でしかない。
心の底からつまらない。
~逃れられない呪縛~
どれだけ悩んでいても、
立ち止まっていても、
生きている限り日はまた昇る。
ああ……筆が進まない。
~昨日へのさよなら、明日との出会い~