「え、うちもあのサービスやるんですか!?」
「しょうがないよー、上が急にやる気になっちゃってさ」
銀河にたゆたう星々を扱う事業者の中には、
「願いを叶えるサービス」を提供する物好きな組織もある。
下に付いている者はさぞかし手を焼いていることだろう。
「そもそもエネルギーに余裕あるんですか?」
当たり前だが願いを叶えるには膨大なエネルギーが必要だ。
そして、そのエネルギーは星に住む民衆による祈りによって集められる。
つまり、祈ってはもらうがギリギリ叶えられない塩梅で条件を設定する必要がある。
集めるエネルギーよりも叶えるエネルギーが多くなっては立ち行かなくなってしまうからだ。
最大手である流星サービスの「流れ星に願い事を3回言う」というのは、現実的ではないが夢のある絶妙なラインといえる。
条件を変えずに速度で難易度を調整できる点もよくできている。
「余裕あるわけないでしょ、カツカツだよー」
流星サービスが好調なのは、潤沢なエネルギーと手広いサービス、そして流れ星という大きな武器があってこそだ。
まず我々の管轄は月とその軌道、つまり白道の周辺である。
当然流す星なんてないし、月を扱うとなるとサポートは地球という辺境の星しかなくなる。
しかも聞いた話では、地球では願い事といえば星がメジャーになっていて、月の知名度はかなり低いといえる。
上手くいく通りがない。
我々は上の気まぐれ、ハズレくじを掴まされたわけだ。
「そういうわけだからよろしく」と上司ももういない。
とはいえ、報告ができるくらいには体裁を整えなくてはならない。
その後、新月限定で願い事を受け付け、定期的に抽選で叶えるという方法を採用し、知名度こそ低いが継続できる程度には上手く定着されることになる。
すぐ終わると思っていたのに、何だかんだ面白がってくれている。
回るだけの球体のどこに神秘性を感じるのか、この星の民衆の感性はよくわからない。
~月に願いを~
5/27/2023, 9:59:08 AM