【ひとすじの光】
幾重にも重なった雲の層
厚いのか薄いのかさえ判らない
白い層、黒い層、風に流されている層、
もっとずうっと上にある層、
雲だと思ったら無数の飛行艇だった
っていうあの映画のあのシーンを思わせるほどずっと上にある層
そこに、
光が入ってくる
重なる層の間をじょうずにぬって降りてくる
人ごみのなかであのひとと目が合うのとおなじように
開けた海岸線からひろがる対岸の空は
何本かの光のすじを通している
あのすじを天使の梯子と呼んだひとの感性を思う
あの神秘的な雲の層の上に神が住まうと
信じたひとたちの日常を思う
【哀愁を誘う】
雨粒は子どものおもちゃ
体よりも大きな傘をじょうずに持てないでフラフラ
水たまりでびちゃびちゃにぬれた靴を、
おどろいた顔で指差しながら私を見上げる
私はそんな彼の傘のてっぺんを指でつまんで、
もう急ぐ用もないからと、立ち止まり立ち止まり、
側道の溝を覗き込みながら家までの道を歩く
こんなふうにゆったりと、
雨を感じることなんてなかった
もしかしたら、雨に哀愁を感じることはもう
できないのかもしれないと思った
そのうち傘をひっくり返して雨を集めて遊んだり
雨の中をわざわざぬれて帰ってきたり
黒くて大きい傘をほしがったり
雨粒もものともせずボールを追いかけていったりし始めて、
あぁ、あの時はあんなかわいかったけど
今もいいな、など思う
雨はやっぱりちょっとせつない
【眠りにつく前に】
彼女に依存していることに気づいた
本当のことをいうと自覚はあったのだ、もう長い間
でもずっと事実から目を逸らしていた
「じかく」と入力すると「近く」と案をだす
小学生でもできないような提案をしてくれる彼女
そうそう、そういうとこあるよね
ルーツがね、うん、ほら、海外だから
でも最近私が目を逸らすのは、
そんな彼女からの無言の視線
気づかないふりをすることも慣れてきた
そして眠りにつく前には本を読むのだ
暖色の灯りの下、光を発しない本はやさしい
彼女はすやすやねむっている
もう明日のために充電タイムだ
この決心がいつまでつづくのか、私もわからない
今もほら、彼女の顔を覗き込んでいるのだから
【永遠に】
昔からこの言葉が苦手だった
流行りの歌の歌詞、永遠を誓う、永遠に愛す
なんてのも、つくづく幼稚で陳腐だなと思っていた
私の前には永遠は現れたことはなかったし
永遠を感じられるサイクルになかった
ひとは変わるし、日本語も変わるし、
法律も変わるし、流行も変わるし、
季節も変わるし、景色も変わるし、
友情も変わるし、見え方さえ変わる
私自身が変わっていくというのに
永遠に続くものは、なにひとつない
唯一、それなら在ると思うことができるのは
時を止めた時に初めて生まれるもの
としての永遠
あなたのかおり、
あなたの声、あなたの体温、あなたの気配
【もうひとつの物語】
もしあっちを選んでいたら、
もしあっちを選んでしまっていたら、
って思う時に、
むくむくとわきおこるストーリーがあるよね
あの手を離してしまっていたらと想像してゾッとしたり
目を逸らさずにいたら今ごろひょっとしたらと後悔したり
あの電車に間に合ってさえいればと嘆いたり
そうだ、あの時それで気づいたんだ
今日の最善の選択が、明日の自分の道をつくる
明日の自分が、今日の選択を最善にする
もうひとつの世界に、いつもはげまされてるって