【ジャングルジム】
主人公の兄だったか
そのてっぺんに立って、世界と繋がっていると叫ぶ物語を読んだことがある
精神を病んだ彼はそして
ついにこの世界の成り立ちを理解してしまうのだ
その物語に触れて以来、
ジャングルジムがアンテナに見えてしまう
踏み込んではいけない世界につながっている
【時間よ止まれ】
おとなになると時間が過ぎることのありがたさや残酷さも知って、
時間がすすまないと空気が動かないから呼吸はどうなるのか、止まるのがどの範囲なのか、惑星も止まるのか、重力は、意識は、なんて考えちゃったりして、
だけどそうすると本当にそういうことが起きていても誰も気づかないだろうからひょっとするとあの時お気に入りのお皿をゴミに出しちゃったのも自分じゃなくて誰かがゴミ袋に入れた可能性もあるよね、そうかもそうかも、怖〜
とか
ストップしてしまわなくていいから、
国民的アニメのほとんどがそうであるように、
ずっと、みんなが、今の年齢のままでいればいいのにと思う
あーいや、去年くらいがいいかな
けれど、ほんとうはさ
中学受験で子どもらしい時間を奪われたクラスメイトのなかで、真っ黒に日焼けした我が子の
身の置き所がない毎日が早く終わればいいなと思う
上手いと上手くないのはざまで、
賢いと賢くないのはざまで、
おとなびていると子どもじみているのはざまで、
いちばん自分を定義したい時期の始まりに
どっちにいけばいいのかわからない毎日があっという間に駆け足で通りすぎて
ポッと、あかりがともるといいなと思う
そこに気づけたらいいなと思う、楽しい日々に戻るといいなと思う
あなたの迷いはまちがってないよ
みんなの生活もまちがってないよと話し合いたい
きっと今はまだそのときじゃないけれど
【夜明け前】
道はどこかへつながっているのだ
果物も肉も腐る直前が最も旨いのだ
追い詰められた鼠は猫を噛むのだ
夜明け前の空がいちばん暗いのだ
だから心配いらない、行ってこい
【本気の恋】
ってなんだろうね?
いつだって本当に好きだったけどな
自分の時間、心、人生、自分の何かを懸けて真剣に向き合う様を本気というなら、
そんな相手に向き合って、そんな相手の本気に本気で応えたいと思ったのが最後の恋だった
それが今の家族をつくった
本当に好きだよ、と言ってくれた相手は妻子のもとに帰ったし、
初めて恋をした、と言ってくれた相手は別の女を妊娠させて結婚したし、
ずっと好きだよ、と言ってくれた相手は略奪婚で若社長になったし
恋はいつだって真剣だ
想いを遂げようが遂げまいが、伝えようが伝えまいが、
抱こうが抱かまいが、
結果がどうあれ、それが恋ならいつだって
とてもその人らしい、と思うのだ
本気とはそれはすこし違う気がするけれど
【カレンダー】
おばあちゃんちにあった「日めくり」。毎日ちがう格言が書かれていて、幼心にもなかなか興味深かった。今思えば当時のそれは特殊な道話であって、どうりで母があえて触れようとしなかったわけだと、物心ついてから妙に納得したのを覚えている。
それにしても、ある世代から上のご年齢の方々のおたくでは、トイレにカレンダーが置かれていることが多い。あれはなぜなのだろう。世界一有名なねずみさんたちの描かれた保険会社のカレンダー、接骨医院の卓上カレンダー、酒屋さんのシンプルな日めくりカレンダーなど、大きさ、紙質、仕様などの違いがあればさらに種類は多い。
ゴッドハンドのいる整体に通っていた。先生のご自宅に伺って施術してもらうのだけれど、そこのお手洗いはすごかった。
ドアには書道で格言の書かれた週めくりカレンダー。壁際の飾り棚には3つの立方体に書かれた数字でそれぞれ月日をつくる木の置物。ペーパーホルダーの上には手帳サイズの365日カレンダー。その上には「君ならできる!」とあの熱いひとが叫ぶ週めくりカレンダー。
…どうしてこれほどまでカレンダーが必要なのか。
なにか鬼気迫るものを感じる。
なにを確認しているのですか先生。
それはトイレでしないといけない確認なのですか先生。
私の仙腸関節は分かるのですか先生。
ほんとうに分かるのですか先生。ほんとに?え?
ひょっとしたら私もあと20年ほどするとわかるのかもしれない。カレンダーのカレンダーとして以上の存在意義が。