【些細なことでも】
最近得た確信、とても些細なことだ
選ぶ言葉ってそのひとの立つ位置や所属する共同体、その集団がもつ潜在的な価値観みたいなものを指し示す座標みたいなものだ
今朝「界隈」が若者のあいだで流行っていると情報番組で放送していた
使うことによって共通意識が芽生えたり、その言葉だけで通じるものが多くなったりするそうだ
みんなお互いに自分と同じっぽいひとたちと仲間でいたいんだな、引き込んだり、引き込まれたりしながら
逆に考えると、その言葉を使っているというだけで周囲からは「その集団のもつ象徴的な価値観」を体現しているように見える、ということでもあるよね
日々触れるいくつかの共同体の価値観、それに裏づけされた言葉のチョイス
ここですこしリセットする機会をもらっているのは、とてもありがたいことです
【不完全な僕】
私はあきらめない
今日は昨日の結果で、昨日はおとといの結果なんだ
今日が明日をつくる
今日が昨日を肯定する
自分を愛すること、信じること、
今日の自分を愛せたら、昨日の自分を肯定できる
今日の自分を許せたら、昨日の自分をほめられる
そうやって自分を愛することを学んでいく
ほら、私たちはみんな階段の途中、
みんな不完全だ
【突然の君の訪問】
突然の訪問者といえば
子育てのありがたいお話云々のおばさまたちか、
テレビの受信料のおにいさんたちか、
息子の友人たちか…
今日はひさしぶりにベランダへつづく窓を開け放っていたから
近所の公園の藪から虫の音が聞こえてきた
そういうのも訪問者
戸惑うような訪問は最近受けていない
約束もなく、連絡もなく、ひとり暮らしの玄関に立つ君を見る
そんな過去が私にもあったろうか
【雨に佇む】
雨宿りをしていたら同級生の男の子が傘をかしてくれて、
なんてジブリみたいなことは起こった試しがない
私はいつも雨のなかを、傘を買える店まで果敢に走る
それを避けたい時は、朝、傘を持って出る
昔々、まだ高校生だった時のことだ
雨の中を俯いて橋を渡っていた私は、通りかかった父の車に拾われた
「乗れ」
父は、運転席から身体をのばして無機質に助手席のドアを開け、無愛想に言った
「傘をさせ、持っているじゃないか手に」
のそのそと乗り込んだ私は、自分が傘を持っていることにその時に気がついた
どんな距離をそうして濡れながら歩いていたのか、今ではもうわからない
おぼろげに記憶にある会場となった会館は、その橋からはずいぶん遠いはずだ
彼は友人だった
確かに、数ヶ月前まで同じ校舎で過ごしていたはずだ
笑ったり、からかわれたり、逃げ足が速くて…
そうだ、私をマネキンみたいだと言ったのも彼だった
怒ると、けなしたわけじゃないとあたふた言い訳をしていたっけ
さっき私が花を手向けたのも、彼で…
その事実が、白昼夢のように私のからだを呆然とさせていた
雨は故人の未練を現すという
不器用でぶっきらぼうだった若い父の言葉が思い出される
「ひたるな 歩く時は前を見ろ」
父は名言をいくつか持っているけれど、
なかでもこれは、思い出も相まってなかなかのパワーワードだ
今でも俯きそうになるたびに思い出す
そう、持っている傘は、必要な時はさすべきなのだ
濡れないように、なみだを隠せるように
【私の日記帳】
10代の頃、日記を書いていた
日記は2冊目あたりまで「日記帳」の形をしていたけれど、そのうちありきたりな罫線ノートに変わった
日記は時々詩になり、散文になり、感想文になり
そうしている間にノートはパソコンに変わった
物語になり、エッセイになり、また日記になり、
そのうち、ふと思いを綴る媒体はスマートフォンになった
誰にも言わない自分だけの世界、価値観、かなしみ、よろこび、視点
当時、私の日記を母が読んでいたと知ったのは去年のことだ
家族から自分の受けた傷は私にも等しく受ける責任があると思い込んでいる姉が、
事もなげに笑いながら教えてくれた
なるほど、だからこのひとは我が子に同じことをするのだろう
母は12年前に他界した
私への深い愛情と興味と疑問を持っていた母に宛てて、
私は時々手紙を書く
便箋だったり、心の中だったり、いろいろだけれど
あのひとは文章を読むことが好きだから丁寧に
日記帳も母も、もう手元にはないのだから
けれど確かに見える気がする
こっそりと隠れて日記帳を広げる母の横顔が
そしてその口元はすこし笑っているのだ