【雨に佇む】
雨宿りをしていたら同級生の男の子が傘をかしてくれて、
なんてジブリみたいなことは起こった試しがない
私はいつも雨のなかを、傘を買える店まで果敢に走る
それを避けたい時は、朝、傘を持って出る
昔々、まだ高校生だった時のことだ
雨の中を俯いて橋を渡っていた私は、通りかかった父の車に拾われた
「乗れ」
父は、運転席から身体をのばして無機質に助手席のドアを開け、無愛想に言った
「傘をさせ、持っているじゃないか手に」
のそのそと乗り込んだ私は、自分が傘を持っていることにその時に気がついた
どんな距離をそうして濡れながら歩いていたのか、今ではもうわからない
おぼろげに記憶にある会場となった会館は、その橋からはずいぶん遠いはずだ
彼は友人だった
確かに、数ヶ月前まで同じ校舎で過ごしていたはずだ
笑ったり、からかわれたり、逃げ足が速くて…
そうだ、私をマネキンみたいだと言ったのも彼だった
怒ると、けなしたわけじゃないとあたふた言い訳をしていたっけ
さっき私が花を手向けたのも、彼で…
その事実が、白昼夢のように私のからだを呆然とさせていた
雨は故人の未練を現すという
不器用でぶっきらぼうだった若い父の言葉が思い出される
「ひたるな 歩く時は前を見ろ」
父は名言をいくつか持っているけれど、
なかでもこれは、思い出も相まってなかなかのパワーワードだ
今でも俯きそうになるたびに思い出す
そう、持っている傘は、必要な時はさすべきなのだ
濡れないように、なみだを隠せるように
8/27/2024, 12:40:01 PM