【鳥かご】
うちにはうさぎがいる
昼間はゲージのなかでノンビリ寛ぎ、夜になると部屋に放たれてとびまわる
ふわふわのラビットファー、大きな鼻、そろった前歯、肉球のない手足、長い耳、ほんのりあたたかいその体温、おやつの時の爛々と真っ黒になる瞳
かわいくて仕方ないのだが、いかんせん無口なのと
表情がわりと一定なのとで、自分が信頼されているのかどうかいまいち自信が持てない(残念である)
でもひとつのことには自信がある
この子は、「野に放ったらもう二度と帰ってこない」ということ
何かの拍子に公園にでも連れて行き、何かの拍子にパニックになって、何かの拍子にハーネスから脱出してしまったら、もう永遠におうちに連れて帰ってあげることはできない
それどころかおそらく、二度と姿を見ることもできないだろう なぜなら駿足すぎるから
家族全員、公園に連れて行こうと思ったことも、ハーネスをつけようと思ったこともない
ゲージって、おうちって、そういうものなのだ
鳥かごという言葉には、もうすでに別の意味が含まれている
言葉が熟語的に持つ別の意味にひっぱられないように、客観的に使いたい
【花咲いて】
3年あれば人生は変わる
まわりにいるひとたちすべてが変わる
流れに逆らったり、留まったりできるひとなんていないのだから、そりゃあもう、大蛇がうねるようにして大きく世界が変わる
私も今、新しい世界に渡る段階だ
そしてふと頭にうかぶのは
「もうふりかえらない」とか「前だけを見つめて」とか歌詞でよく見かけるけどまさにそれ、その一文
クサいわぁなんて思っていたけど、まさにそうとしか言えない
ありきたりな歌詞も、何度もくり返されるには意味があるということか
毎日頭のてっぺんに小さな花を咲かせて、ご機嫌でいこう
脳内お花畑なんて皮肉を地で行くのも悪くないじゃないか、誰に迷惑かけるでもなし
自分にとっての明るいほうへ、
光をさがして飛ぶ羽虫のように、光に向かってのびる雑草のように
【もしもタイムマシンがあったなら】
先のことわかってしまうとつまらないから、
もどりたいかな。
実は、30年くらい前からやりなおしたい。
ずっと思ってる。
口にするとなんかの拍子に本当になりそうで怖いから言わなかったけど、
白状する。
あの恋も、あの迷いも、あの後悔も、あの光も、
あの友情も、あの涙も、あの孤独も、あの焦燥も、
ぜーんぶちゃんとクリアしてきたい。
それからきちんと歩きなおしたい。
そういうことをゆっくりしっかり考えてから、
大きく越えていきたい。
その結果が今のようにならないならそれは仕方ない。
出会うべき人とは出会う、そう思うから怖くない。
中途半端にのこってるから、いつまでも囚われるんだ。
白状する。
もしもタイムマシンがあったなら、30年前、
まだ携帯もスマホもなかった時代へ。
【今一番欲しい物】
片想いばかりの半生だった
私たち親友だよね、あるいは
あの子たちいつもいっしょだよね、と
思春期も、青年期も、この歳になっても
まだやってるのだなと気づくことがある
そういえば、私がそうでありたい子はいつも、
ほかのだれかとそうであった
友情だけじゃなく、恋も
私のウィットや、情の深さや、お茶目さも
悪くないと思うんだけどな
階段をすこしずつのぼれば、
そういう景色も変わって見えるのだと思っていた、
まだ先が見えない頃は
けれど私のうしろに階段はできあがらなくて
ふりかえると、開いて通ってきたいくつかの扉
扉のずっとはるかむこうに、いつかの自分が見える
あの頃の自分がなつかしい
スネた顔していじけてる、白い腕、懸命な汗
なんてかわいいんだろう
今度は自分に片想い
この片想いは、なかなかいいかもしれないな
【私の名前】
姓は公のものだけど、名は私的なもの
人の名に使われている漢字を見た時、
そのひとの背景を知ったような気がしてしまう
ご家族が選んだのであろうその名前、その漢字
優雅な響き 柔和な印象 軽やか 真面目
意志が強そうだ 歯切れがいいな
私の名前はどんな印象をあたえるんだろう
SNSに流れてくる嫌なまんがに、同じ名前を見た
嫌なやつが同じ名前だったら悲しくなるよね