【夜景】
もう、死にたいと思った。
大学卒業後に勤めた会社は自分のやりたい事とは違って、
3ヶ月足らずで辞めてしまった。
たいして明確になってない「やりたい事」を優先して
東京にきた結果は、
低賃金、長時間労働、サービス残業は当たり前ブラック会社、
おまけに彼女なし、貯金もなし、
会社の同僚や上司が、無駄にいい奴らなせいで
やめるに辞めれなかった。
俺だけじゃない。
みんな限界だった。
気づけば4年がたった。
同僚も気づけば半数が居なくなってた。
今月で、また1人いなくなる予定だ。
何か大きな、きっかけがあった訳じゃない。
ただ、限界だった。
どんなに頑張っても終わりの見えない仕事
次々に消えてしまう同僚、
なんで俺は辞めなかったんだろう?
疑問に思えば思うほど分からなくなった
「やりたい事」なんてものはとうの昔に忘れてしまってて
今の「やりたい事」も分からない
1番なりたくない大人になってしまった。
2、3日休めば、冷静に考える事ができるんだろうな。
なんて客観的に考えながらも
足は会社のビルの屋上に向かっていった。
この生きづらさが何なのか、
逃げ出したいのに
自分が逃げた後、犠牲になる人達の事を考えていたら
いつの間にか自分が犠牲を払う側になっていて、
……どこから間違えてしまったのだろう。
階段をだらだら登りながら、
もう、死にたいと思った。
屋上に続くドアを開けた時
足の重さに気がついた。
だけどもう、この終わりが見えない地獄を、
とにかく終えてしまいたい。
終わっていない今日に絶望して、
見てない明日が来ることが怖くて仕方ない。
一歩、一歩、踏み出して、柵に右足をかける。
死ぬ事の恐怖は感じない。
あと一歩……
「〜ですよね !」
下の道路から話し声が聞こえて
一瞬、焦って柵を握る手が緩んでしまった。
この時、屋上に出て、初めて街の騒音に気づく
車の音や、話し声、アスファルトがすれる音
信号の音、これまで聞こえなかった音が耳に入ってきて、
それと同時に、目の前にある夜景に心が奪われてしまった。
別にたいして綺麗な夜景じゃない。
ただ、一つ一つの灯りが、誰かの生きている瞬間に思えた。
東京タワーなんて見えないし、地元の夜景にも及ばない
なのに目が離せなかった。
悔しくて、
辛くて、
毎日逃げ出したかった。
頑張りたかった。
何度も身勝手に辞めていった同僚達を恨んだ。
なのに、羨ましかった。
だけど自分が辞めたら、
しわ寄せがいく同僚達を思うと
自分を犠牲にした方が楽だった。
分かってた。
……分かってた。
自分の為に自分を犠牲にしてた事。
俺は、柵にかけた足が痛くなって、
足を戻した。
「………仕事やめよう」
【空が泣く】
アキ「空が泣く時、そこにはいつも雲がいて
太陽は大抵隠れてる、本当に泣いてるのは空なのかな?」
ハル「んー、泣いてるのは、実は太陽の方かもね」
アキ「そうだよ!太陽はいつも笑ってるから、
時々、泣きたくなる日もあるよ」
ハル「じゃあ雲は、毎回律儀に太陽の泣いてる顔をみんなに見せないなんて、結構いいやつじゃん。」
アキ「実は、束縛が激しいタイプなのかもよ?」
ハル「えー?でも、時々雨が降ってる時でも太陽が見える時ない?あ、ほら、虹がかかる時とか」
アキ「確かに、その時は雲で太陽は隠れてないかも、
泣いてるのに、虹がかかって、太陽が出てる時は
嬉し泣きなのかも」
ハル「なおさら、いい奴じゃん。
あたしにとってのアキみたいな存在が、
太陽にもいて良かったぁ〜」
アキ「ぇ、なに?あたしが束縛が激しい奴ってこと?」
ハル「ねぇ、もう違うって、……フッフフ」
アキ「ハルのその顔は、嬉し泣きって事でいい?」
ハル「馬鹿!笑い泣きだわ!フッハハッ」
ハルアキ「フハッハハー
【君からのLINE】
ただ、「会いたい」それだけでいい
それだけで、もう何も言わないし
何も考えずに飛び出すから
もう、二度と困らせるような事はしないから
すべて、許すから、
どうか、アナタからの「会いたい」が欲しい
【沈む夕日】
沈む夕日をただ、がむしゃらに追いかけた
待ってはくれないこの景色の
最高の瞬間にどうしても立ち会いたくて
「 はぁっ はぁっ…… 」
口の閉じ方なんか分からないくらいに必死で
とうとう膝が震えだす
自転車をこぐ僕の足が
もつれかけた時
やっと目の前の視界が晴れた
乱れた呼吸を整えながら、
ゆっくりと足を踏み出す
目の前にある景色は
僕がいかにちっぽけか教えてくれた。
行き場のないこの気持ちを
両手で支えきれないほど抱えている僕を
簡単に自由にさせてくれる
そんな景色だった
【君の目を見つめると】
高校最後の夏
一足先に部活を引退した僕は
昨日までの自分の日常を思い返すと
これから始まる退屈な日常に、早くも嫌気がさしていた
そういえば、来月から塾を一つ増やすと
教育熱心な母親が息を巻いている
担任も、僕の将来を心配してか、
より偏差値の高い大学を目指させようと必死だ。
これから待ち受けるであろう未来も、大人の言う苦労も
僕にはまだ分からないけど
当の本人を差し置いて勝手に前に進む毎日に、
苛立ちを感じつつも、
人が決めたレールに身を任せようとする自分に嫌気がする
自分の事なのに、まるで人事の様に思えてしまう。
高校卒業と同時に
誰かが僕の中に入ってきて
人生をバトンタッチするのもありかな、なんて馬鹿げた事を
考えていたら
突然、雨が降り出した。
この息苦しい教室を少しでも楽にしようと
自分の席から近い
1番後ろの窓を少し開けた。
隙間から入り込む雨の匂いと力強い風が心地よくて
余裕ができたのか
ふと、窓ガラスに映る自分の姿を見つめる
ちょっとやつれた顔に
汗と湿気でうねった前髪、
日に焼けた肌も、
整えられた制服姿も
自分なはずなのに
何だか知らない人を見ているようで
窓ガラスに映る君は何だか苦しそうだった。
君の目を見つめると
どうしても言葉にならなかったはずの
思いが溢れてきて
涙がこぼれ落ちてきた。