24.

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【夜景】


もう、死にたいと思った。

大学卒業後に勤めた会社は自分のやりたい事とは違って、
3ヶ月足らずで辞めてしまった。
たいして明確になってない「やりたい事」を優先して
東京にきた結果は、
低賃金、長時間労働、サービス残業は当たり前ブラック会社、
おまけに彼女なし、貯金もなし、
会社の同僚や上司が、無駄にいい奴らなせいで
やめるに辞めれなかった。

俺だけじゃない。
みんな限界だった。

気づけば4年がたった。
同僚も気づけば半数が居なくなってた。
今月で、また1人いなくなる予定だ。
何か大きな、きっかけがあった訳じゃない。
ただ、限界だった。

どんなに頑張っても終わりの見えない仕事
次々に消えてしまう同僚、
なんで俺は辞めなかったんだろう?
疑問に思えば思うほど分からなくなった
「やりたい事」なんてものはとうの昔に忘れてしまってて
今の「やりたい事」も分からない
1番なりたくない大人になってしまった。

2、3日休めば、冷静に考える事ができるんだろうな。
なんて客観的に考えながらも
足は会社のビルの屋上に向かっていった。

この生きづらさが何なのか、
逃げ出したいのに
自分が逃げた後、犠牲になる人達の事を考えていたら
いつの間にか自分が犠牲を払う側になっていて、

……どこから間違えてしまったのだろう。
階段をだらだら登りながら、


もう、死にたいと思った。


屋上に続くドアを開けた時
足の重さに気がついた。
だけどもう、この終わりが見えない地獄を、
とにかく終えてしまいたい。
終わっていない今日に絶望して、
見てない明日が来ることが怖くて仕方ない。

一歩、一歩、踏み出して、柵に右足をかける。
死ぬ事の恐怖は感じない。

あと一歩……



「〜ですよね !」

下の道路から話し声が聞こえて
一瞬、焦って柵を握る手が緩んでしまった。

この時、屋上に出て、初めて街の騒音に気づく

車の音や、話し声、アスファルトがすれる音
信号の音、これまで聞こえなかった音が耳に入ってきて、
それと同時に、目の前にある夜景に心が奪われてしまった。
別にたいして綺麗な夜景じゃない。
ただ、一つ一つの灯りが、誰かの生きている瞬間に思えた。
東京タワーなんて見えないし、地元の夜景にも及ばない
なのに目が離せなかった。

悔しくて、
辛くて、
毎日逃げ出したかった。
頑張りたかった。
何度も身勝手に辞めていった同僚達を恨んだ。
なのに、羨ましかった。
だけど自分が辞めたら、
しわ寄せがいく同僚達を思うと
自分を犠牲にした方が楽だった。
分かってた。

……分かってた。
自分の為に自分を犠牲にしてた事。




俺は、柵にかけた足が痛くなって、
足を戻した。



「………仕事やめよう」




9/18/2024, 1:56:31 PM