そらのけい

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8/19/2022, 7:00:37 AM

割れた鏡

散乱する

それ以外はなにもない

薄汚れた白い一室

それが私のすべてだった

歩くと足が痛むし

横になろうとも体中が痛い

それでも気にせず

毎日出てくる食事を食べていた

ドアの向こうから

いつもと同じ白い

白いご飯

食べているうちに

だんだん口がジャリジャリする

飲み下すと喉が痛い

白いコップを手に取ると

中に割れた鏡がパラパラと

それでも気にせず水を飲む

だんだんお腹も痛くなる

気にしないで横になると体中が痛む

私はまた今日を終える

6/11/2022, 3:41:14 PM

自分の足音だけが響く。

街灯が道を少しだけ照らす。

街灯に灯されず、ぼんやりとした輪郭の視界と。

街灯に灯されて、自分の足元にふらつく影と。

片手には、かれこれ4年は使っているバックと。

片手には、また何も掴めなかった手のひら。

ポッケに入った社員証が、やけにうっとおしく感じる。

頭には、ぐるぐると言葉が行き交う。

顔とか声とか文字とか。

喜びとか、がっかりとか。

嬉しそうな部下の顔とか、失望した上司の顔とか。

あれをやるには、これを進めるには。

出すものは何が必要で。

そのためにはあれを考えなきゃで。

ただ、目に入るのは足と影で。

白と黒と。蛍光灯で照らされたぼんやりとした、くすんだ茶色の靴と紺のスーツ。

無感情に。無意識に。
足は動きを止めない。


今まで、何人とすれ違ったのかすら興味がない。




どこらへんを歩いているのかもわからないまま。



視界になにか飛び込んでくる。
少し前の、膝辺りに。

黒い。
黒い。

髪が。
チラっと。

見えた気がした。


ふと、跳ねるように前を見る。
いつもの曲がり角。
突き当りを左に曲がると、自宅が近い。


私は、さっきの髪が右に曲がったように感じたから。

右を見てみると、少しだけ暗くて。
ちょっと行った先に鳥居が見えた。

特に、意味もなく、ただなんとなく。
足は、右を向いていた。

鳥居をくぐると、息苦しさすら覚える暗闇が広がっており、
これ以上進むのがためらわれた瞬間。

耳元で、何かが聞こえた。

パッとそちらを振り向くと、少しだけ明かりがみえた。

何故か吸い込まれるように、歩みを早めた。



大丈夫。

はやる鼓動を落ち着かせながら。



暗闇としか見えなかった木々が、開けていった。

目の前を埋め尽くすような、輝く光の奔流。

人が生きている。営んでいる。
➖➖➖➖街だ。

私がさっきまでいたとこも、まだ煌々と。
みんな生きていて。
こんなにちっぽけな。

優しい風が、じっとりと汗ばんだ体を撫でる。

私は、しばらくその場で立ちすくみ。

振り返ると、「前」を見つめ、まっすぐ帰路につく。

先程の曲がり角には、花が一輪。

いつからあるのか知らない私は、なんとも言えない気持ちになりつつも。

頭を下げて。上げて前に進んだ。

著そらのけい

6/5/2022, 2:50:46 PM

私は、私の半生を懐疑的に振り返る。
なぜ物足りなさがあるのだろうかと。
金はある。妻もいる。子供も成長した。
家もあり、仕事も満足している。
それなのに。

これは、満ちたものが持つ甘えというものなのだろうか。
満足しているが故に、不足を求めているとでも言うのだろうか。

否。否である。
決して否だと心から。

会社の喫煙スペースで煙を吐き出しながら、私は頭を振った。

そうだ。
あのとき、私は流れに身を委ねて、自分の答えを他人に任せたからではないか。

進学を。就職を。恋愛を。そして。

その場面で、出来る事の最大限をやってきた自負はある。
しかし決断をしなかった。

故に。
故にと、私は心に虚ろを抱えているに違いない。

タバコの灰が地面に落ちていく。


私は、喫煙スペースを出た。
さあ面接だ。
何を聞くべきかは決まっている。

なぜうちを選んだのか、と。
自分は、自分で選んでいないことをひた隠しながら。




著そらのけい