1月、不安に一杯の心とカイロを握って臨んだ受験
2月、早めの桜が咲いたお便りが届いた冬のポスト
3月、最後の制服に身を包んで、駆けていった校舎
4月、隣の席の君と目が合ったオリエンテーション
5月、入学後、初めての定期テストで君と教え合い
6月、湿気でうねった髪を、梳かしてくれた君の手
7月、夏休みの計画表子供みたいってちょっと喧嘩
8月、仲直りして行った遊園地、初めてされた告白
9月、時間決めて手を繋いで茶化されもした登校日
10月、修学旅行しおりを一緒に覗き込んで顔が近い
11月、文化祭の後お疲れって言い合って近づけた唇
12月、トナカイの角を生やして顔を見合わせ笑った
パラパラと1年の日記をめくる音がする。
マスキングテープで貼った写真を撫でて、ふふっと笑った。ゴーンゴーンと遠くの方で鐘が鳴る。
一月一日午前零時 画面に映った君の顔
「もしもし?起きてる?あのさ明けまして……」
貰ったプレゼントを捨てて、褒めてくれた髪を切って、一つ一つ思い出を捨てていってるのに、目覚まし時計で慌てて目を覚まして隣を見る。キッチンに立てば2枚お皿を出す。この部屋の全てに私の恋が詰まっているのだ。
「理由」
雨は嫌いだ。
湿度でセットした前髪は崩れるし、メイクのノリだってよくない。お気に入りの靴は濡れるし、気分は最悪。
けれど、放課後の下駄箱で降りしきる雨を眺める私に君が無言で差し出した傘で、それを分け合うように並んで歩いて、少しだけ肩が濡れる君がいて、それだけで雨も悪くないって想う私は単純だろうか。
テーマ「雨に佇む」
「私の仕事」
病棟に低いようで、高い、どちらともいえない大きな声が響く。それは、荒れ狂う雨の昼でも、満月が輝く夜でも聞こえてくる命の音。
真っ白な服を汚し、汗をこめかみから垂らして、息を途切れ途切れに吐いてでも、私は握りしめると強い力で握り返してくるこの小さな手の、懸命に生きようともがくこの小さな命の、生まれる手伝いをしてることに誇りを感じている。
さあ、前を向け。
テーマ「誇らしい」
「私」
放課後の薄暗い廊下を走っていた。ぽつぽつとしかついてない蛍光灯の下はぼんやりとしていて人の姿は大してなかった。階段を降りる音だけが響く。
好きだった。
その横顔も笑顔も仕草も、話し方から爪先に至るまで全部全部。
拭いきれない思いが涙と一緒に溢れて、私は階段の踊り場で止まった。相変わらず誰もいなくて、なのに人に見られたくない一心で涙を手で拭った。
電気のついていない教室で告白されていたのは確かに君だった。告白していたのは誰だろうか。すごく、可愛かった気がする。私なんか目じゃないほどに。
そうだ、君は格好いいのに、能天気で、それでいてモテるんだった。なんで忘れてたんだろう。
曇った窓ガラスに映った私は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていて
「ハハ…酷い顔」
と向こうで雨に打たれる私を笑ってやった。
テーマ「窓越しに見えるのは」