十二時を知らせるベルの音が街に響き渡る。
賑やかな街がより活気だつ。
今日の半分が終わったと楽しげな声で各々が昼食を楽のしんでいる。家族で食べるもの、仕事先で仲間と食べるもの。
中には一人で食べるものもいた。
それでもうまし糧よと昼食を頬張っている。
午後のため。仕事のため。自分のため。誰かのため。
うまし糧よ。
ベルの音
寂しいなど口にしたくなかった。
口にして仕舞えばそれは形を持ち此方を見つめてくる。
無いものとして扱おうにも明確な形となった以上何をするにも重くのしかかり手元を狂わせる。顔を上げるのも息をするのも億劫になっている。
私にできるのは溶けて無くなるまで静かな心持ちでいることだけだ。
溶け切るまでどれくらいの時間が必要なのか。わからないまま歩けば足跡の様に溶けたものが後ろに続いていた。
寂しさの名残だ。
冬は嫌いだと嘆いた手を握れば酷く驚かれた。
何が嫌なのかと聞けば、冬になると嫌なことが重なるのだと暗澹たる声色でつま先を見つめる。
親戚が死んだ日もペットが死んだ日も事故で病院に運ばれた日も。そのどれもが冬だった。
その度に冬が嫌いになった君。
なら、冬は君の一番そばにいようと誓った。一緒に冬を越すという約束に、少しだけ戸惑いながらうなづいた。
冬は一緒に
とりとめなく話す君の声に耳を傾ける。
耳障りが良い声で聞く話は不思議なほど飽きる気配はない。もう少しだけ聞いていたい。
君が見てきたもの、感じたものを、自分も知りたいのだ。
そう気がついてから一層君の話が愛おしい。
物語が世界になった様な心地で今日も君の声を愛おしむ。
とりとめのない話
「夏風邪は馬鹿がひくなら冬はどうなるの?」
そう酷いしゃがれ声で布団の中に押し込まれた妹が気を紛らせる為に私に聞いてきた。
「ええぇ」
「スマホで調べるの禁止!」
ポケットに入れていたスマホを出そうとすれば先読みされた。お前は普段からそんな機微に富んでいないくせにこんな時だけ姉の行動を予見するんじゃない。
調べないで答える、など言い出したのだ。答えらしい答えは求めていないのだろう。
「真面目な話なんて聞いたら頭痛くなるから」
なかなか詩人じゃないかと感心していたが違った。