誰にも触られたくない。
見せたくもない。
ただ手の中に入れて手放したくない物。
ずっと手元にあると信じていた。
だがそれもこうして取り上げられ引き裂かれ叩きつけられた。
殺意と憎悪に支配され飛びかかる。
法律も良心も抜け落ち暴言を吐き散らす。取り押さえようとする手を振り払う。
流石に二人三人と押さえつけられれば身動きが出来ずに恨み言を吐いた。
火が灯ったキャンドルを持って、館の中を歩く。
灯のない館でキャンドル一つなどなんと頼りの無いことか。窓の外の月明かりの方が廊下を照らしてくれている。
それでも、このキャンドルを取り上げられたらと思うと迂闊に手放せない。
そっと廊下の先を見ようと手を伸ばす。
誰もいない。
いないはずが、誰かが囁いている。
その火を寄越せと。囁いているのだ。
たくさんの思い出。
数えきれんないほどの思い出を覗けば必ず君がいる。
だから、きみのおもいでにも、私がいる。
当たり前のように寄り添う思い出。
だがある頃から君は消えた。
沢山あったはずの思い出は埋もれ薄れ圧迫されて行った。
思い出を振り返るのが、今ではちょっぴり苦手だ。
冬になったら私たちは食べられてしまうらしい。
どのみち私たちは冬を越すことが出来ない。春に生まれた私たち。
なら食べられたほうがましなのだろう。なのより、私たちを見てくれるあの人も、喜んでくれるだろう。
私を食べて喜ぶあの人。
冬に向かう私が唯一見る夢。
「卒業式出たくない……」
友達は教室で呟いた。
窓の外は寒々しい曇り空でより一層寒さが身に染みる。
「まだ来年の話じゃん」
ただいま十一月半ば。まだ十二月が残ってる。そして一月二月もある。指折り数え三ヶ月と半月。
「解ってない。思い出作りはそんな三ヶ月ちょいなんて時間じゃ足りないの」
「そうかな」
三ヶ月もあればそこそこの思い出になる。クリスマスお正月さらにはヴァレンタインのおまけ付き。
「だって、卒業して、はなればなれになっても、思い出があれば寂しくないし……」
年明けしてからあれこれイベント消化にご執心だったのかと納得もした。
「……尚更卒業式でないとね」
「出たらお別れじゃん」
「お別れじゃないよ。また会おうねって約束するの」
ゆっくりと友達がこちらを向いた。
まだ納得はしていないらしくブスくれていた。
はなればなれ