【ホラー風味】
子猫が鳴いている。
だが肝心の姿は見えない。それどころか親猫の気配すらない。
親猫が子猫の世話ができない状況にある。人間が捨て置いた。
どちらにせよ嫌な考えばかり過ぎる。捨て置くにも子猫が長く生きられるとはとても思えなかった。季節は秋を通り越して冬に差し掛かっている。
もし人間の身勝手によってそんな事態に陥っているとしたら尚更見過ごすことができない。すぐに捕獲のために道具をかき集める。
すると散歩に連れて行ってもらえると勘違いした犬が鼻息荒く駆け寄ってきた。
「さっき行ったでしょ」
軍手をつけた手で頭を撫でる。まだ諦めていないのか足元を右往左往している。
外に長らくいたと言うことは何かしら感染している可能性がある。予防策はいくらあってもいい。
通気口に潜り込んでいる可能性もあるかと虫取り網と懐中電灯を担ぎ出しいざと鳴き声の発信源に向かう。とは言ったものの家の裏なのだが。
か細い、弱々しい声。
「子猫ちゃーん」
声だけが聞こえやはり姿が見えない。
隠れられる場所など、やはり通気口か。
そう覗き込む。
すると突如家の中が騒がしい。犬の声だった。
吠えることの少ない犬。一旦落ち着かせるかと腰を上げれば犬が飛び出してきた。
どうやって。
鍵はかけていないがドアを開けるなど今までできた試しがない。私の驚きを他所に通気口に向かって吠え出した。
慌てて首輪を掴み引き剥がすが犬は怒り狂ったように吠える。
その隙間から、何かが目で追いきれない速さで私たちの足元を駆け抜ける。
ただ、明らかに子猫とは思えない異様さと異臭を放っていた。
それ以来、子猫の声もしなくなった。
木枯らしを巻き上げ秋風が横切った。
秋風が立ち去ればいよいよ冬だ。またふわりと枯葉が舞う。
今度は髪の毛が揺れる。
去年はどうしていたか。
今年も忙しくなるだろう。
また会いましょう。
その言葉が嘘だと知っていた。もう私たちが会うことはない。
連れて行ってほしいと願っても、君は聞き遂げてくれないのだ。
私は弱い人間なのでそれならばとその嘘を信じた。
また一緒に食事をして、季節を感じながらゆったりと歩けると夢見てしまった。
背中を見送り今日で何日が過ぎただろう。
僅かな後悔を胸に、今日も二人分の紅茶を淹れる。
また会いましょう
「スリルはたまに味わうから楽しいんだよ」
そう彼女は一歩も動かなくなった。
行楽日和の遊園地。それぞれがそれぞれの楽しんでいるのがわかる。
「そうだね。ところで今日はどんな目的でここに来たんだっけ」
「人って変わってくものだから」
「今日は絶対ジェットコースター乗るって言ったよね」
彼女の両手を掴んだ。少し手が汗ばんでいた。
「言ったっけ……」
「言ったね」
そのまま力を込めれば足をふんじばっている。
正直ジェットコースターはどうでも良かった。だがこんな反応が見れるのはなかなか愉快だ。もう少し楽しんでから乗り込んでもいいかもしれない。
あんまりにも弱々しい羽ばたき。それもそのはず、まだ十分に羽が生え揃っていない。
はたりと地面をはたけば小石がコロリとこりがる。草木を軽く靡かせるのみ。
思うように行かずに癇癪を起こしたようにパタパタと音を立てる。
焦ることはない。大丈夫だよ。
そう安心させるように頭を撫でる。
ゆっくり大きくおなり。
飛べない翼