「私が小人になったらススキでベッド作って」
「寝心地良さそうだね」
どうやら小人になっても私といるつもりらしい。
嬉しいやら恥ずかしいやらで適当に返事をしていた。
「あと、春は桜の花びらね。虫は嫌だからよくみてね。スイカの皮でプールも。笹の葉で船も作るから」
ついに季節を一周してしまった。まったくもって想像力豊かで羨ましい。
「近々なるご予定でも」
「ない。でも忙し過ぎて若干イライラしてる」
なるほど。
明日の帰り道に甘いものでも買って帰ろう。どうせならお団子だろうか。ススキの群生から一本拝借しようではないか。
ススキのベッドも魅力的だがお月見も中々に粋ではないか。
ススキ
ススキの群れが風に撫でられ揺られている。
秋空の中、ふわりふわりと豊かな穂。子供が一本手折っている。確かに子供の好奇心を刺激するのに十分である。
(「ねぇ、一本持って帰ろうよ」)
どこかで誰かが無邪気に振り返った気がした。
「……持って帰っても花瓶がないしな」
そう近くにあった一本を撫でる。脳裏にこびりついた影に力無く答えた。
脳裏
なんでもいい。
意味を持たせたかった。価値を持たせたかって。残したかった。
忘れ去られたくなかった。
執着に似た切望。大小さまざまな願いをまとめ煮詰めたのこがこれなのだ。
価値はなくてもいい。意味がなくていい。
それでも未来に残すためには意味があり価値がなければならない。
なら後付けするしかない。
意味がないこと
知り合いというには近く友達と言うには距離がある。
改めてあなたと私の関係を口にするならそんなところだ。
でも、もう少し仲良くなりたいのも本当。
きっかけがないと嘆く。
だってきっかけさえあれば。
友達が何でもいいから話してみなよと言われるほどわからなくなる。
そう考え事をしながら歩いていればあなたにぶつかってしまった。私は慌てふためきごめんね、
ぶつかっちゃったと言って君を見送った。見送った後に気がついた。
今まさにきっかけだったのでは、と。
気がついた時には遅い。どうして今気がついてしまったのか。友達のアドバイスが脳裏に浮かぶ。
出来っこない。ならまたきっかけを待つの?
「あ、あのさ。途中まで一緒に帰っていい……」
私の声は裏返り上擦り聞けたものではない。
どうしよう。ことわられたら。そんな不安一杯だった。
「いいよ。帰ろう」
お返事を聞くと不安はどこへやら。
調子良く歩いていた。
恋という字を使わずに恋を表現するならば雨しかない。
それも柔らかい雨だ。
乾いた地面を雨が優しく撫でる。すると強張っていた外皮がやわやわとふやかされるのだ。じわりじわりと水が染み込むように満たされ柔くなった肌が、心が心地よい香りを発する。香りだけではない。眼差しに、所作に、声に花が咲いたように豊かになるのだ。
我々はそのようにできている。
柔らかい雨