蒸し暑い夜 羽毛布団は放り投げて
ウールのコートとは しばしの別れ
(クリーニング屋のクーポンを使った試しがない)
春はどこへ行ったやら 冷蔵庫の温度が上がる
噴水の季節 川へはもう行かないけれど
セミが着々と準備を進めている
最高気温が更新されたと毎年騒ぐテレビ
もっと報じるべきことがあると太陽は嘲笑う
蒸し暑い夜 風に乗って
シティポップが気だるく流れる
ストリーミングでも構わんが
でも真空管 そこにレコード 置いといて
拾った琥珀に 虫が入ってた
アリかクモか はたまたハエか
幸福か不幸か 分からない姿をしていた
宇宙はどんどんと 拡大している
これまでに何人が生まれて 何人が死んだのか
地球はそんなことに無関心で
たぶん むしろ 植物の方が それを気にしている
プラネタリウムの季節が近づく
あのひかりは 何万光年前のものなのか
気づいていたけれど それは偽物だった
衣替えだって 何百回も できないね
刹那
雨が降る 雲が欠けていく
修学旅行の帰りのバス みんなが疲れて寝ていた
カーテンの隙間から見た外
灰色の雲が世界を 食らおうとしていた
その隙間から 雫のように差し込む白い光
誰かが 「天使の階段」と叫んでいた
あれから僕たちも大人になっただろう
木々の雫にも 雲からの光の雫にも
もはや目もくれない日々
雨が降る 欠けていく空
自然は変わらぬと自惚れるなかれ
落ち葉が去って 桜が咲いて
それ見て酒飲み 宴がおわる
散った桜に 興味はないのさ
だってもう 蝉が鳴いているでしょう
抜け殻みてたら イチョウの絨毯
銀杏の匂い マフラーの出番
防虫剤の匂いのマフラーに毛玉が生まれたら
梅が今さ今さと湧き上がる
そのうち 背骨が曲がって 三途の川さ
言葉にできない なんて 言わずに
想いは言わねば伝わらぬ
誰も時間も待っちゃくれない
気象予報士が 予報を告げる
当たったとしても 外れたとしても
会社に着く頃には みんな忘れている話
傘を握るかどうするか それを決めるだけのこと
ところにより雨
100年生きたとしても 訪れることのない場所には
傘が壊れたと悪態をつく人
てるてる坊主を恨む人
洗車したばかりの車で出かける人がいる
たぶん一生出会うことはないけれど
その人も僕も また訪れる晴れを待っている
そんなことに関係なく 衛星は写真を送り続ける
僕たちが傘を握るために
また晴れが来るのだと安心させるために