ファンヒーターから漂う灯油の匂いと
毎年聴いていても 飽きることのない
クリスマスソング
(今年もきっと君は来ないし
ラストクリスマス、なんて 言って
去年のクリスマスを思い出す)
イルミネーションが煌めく街に 少し心躍る僕ら
今年は何を贈ろう
オランダをテーマに作り込んだ街に入ると
木々も風車も何もかもが光に照らされていて
少し気の早いサンタクロースたちが
至るところで ポーズを決め込んでいた
◇
お目当てのレモンステーキは分厚くて
オニオンスープが意外と薄味だったのが
また良くて ゆったりとした時間が流れた
◇
ホテルからは海が見えた
少し暗い部屋の中 灯りをつけて
小さいサイズの人生ゲームで争う
約束手形が増えても 苛立たなくなったのは
僕らが大人になったからなのか
◇
朝食は 好きなものをたくさんとって
おかわりまでした
君は小さなケーキを 大切そうに食べていた
◇
雨でも 君はご機嫌で キラキラした街を
真剣に見つめていた
(カメラを見つめる僕とは 大違いだった)
そして お土産を買いすぎる僕たちは
似たもの同士だ
二度寝から目が覚めて 少し気だるい日曜の午後
何か口に入れる必要があるはずさ 重い足を動かす
近くのスーパーにある ちらし寿司でも買おう
◇
外に出ると 空が灰色に染まっている
目を凝らすと 微かに水滴がみえた
雨音はきこえない
だから 傘はいらないだろうと判断して歩き始めた
濡れながら歩いていると
ふと
亡くなった愛犬の小さな歩幅を思い出した
◇
目当てのちらし寿司は売り切れていたし
それなりに服は濡れたけれど
しとしとと降り続ける雨は 嫌いじゃなくて
隣にあった 2割引のカツ丼を手に取った
アーケード商店街を少し抜けた先に
3軒の古本屋が 点在している
その一つが 終わりを迎えるという記事をみた
◇
大学の頃は足繁く通い
(今では月に数度訪れる程度だったけれど)
くたびれた本たちの背表紙と睨めっこをし
不思議なコレクションを増やしていった
本屋では見たこともない本が そこにはあった
◇
その日 店の親父さんのもとに
馴染みの人らが 次々にやってきていた
聞こえてくる会話の中から 病が 理由と知った
◇
三島由紀夫の選集や いつ読むかわからないエッセイ
官能的な文学に 多分知らない詩人の詩集を買う
閉店セールで 安かった
くたびれた紙袋に入れてもらった
哀愁漂う、くたびれた紙袋から出てきた本たちは
本棚に入らず 床の上に積み重なっている
金木犀の香りがふと香る。
もうそんな時期かと思って、ふと上を向くと、
鉛筆みたいな白い飛行機と半透明の細切れの雲が
澄んだ青い空のキャンバスに
さりげなく描かれているようにみえた。
「そろそろ衣替えしなきゃな」なんて思うけど、
土日のための服の量なんて、たかが知れている。
とっておきの服は、きっと今年も出番がないだろう。
それに、セーターやコートはまだ早い。
だから服たちは、クリーニング屋の袋のままで
世界が寒くなるのを待っているのだ。
「今年ももう終わるね」なんて笑う君に
「まだイチョウすら落ちてないよ」と言い返すのは
いささか冷たいだろうか。
「夜中に鳴く虫は、なぜ四季がわかるのかしら」
と真剣な眼差しで語る君に
「遺伝的なプログラムさ」と言い返すのは
いささか味気ないだろうか。
そんなことを思いながら僕は、再び歩き始めた。