『夢を描け』
縁側で呑気にお茶とお菓子を楽しむの。
隣には貴方がいる。
もう彼此15年の仲の貴方が、今と変わらず隣にいる。
それで今と変わらず好きなものの話をするの。
漫画やアニメや舞台の話を。今と変わらない明るさで。
いつか彼の人は「停滞は死だ」と言っていたけれど、
その言葉が深く心に刺さりはしたのだけれど、
それでも私は今あるこの日々が永遠に続けば良いと、
結局はそんな子どもじみた夢を描いてしまう。
ねぇだって、彼の人が描いた夢も結局は、
ただの平和と安寧だった。
夢ってそういうものじゃない。
『どんなに離れていても』
どんなに離れていても貴方が好きで貴方が大切。
心も身体もずぅっとずっと離れていて、
多分一度たりとも貴方と出会うことはないのだけれど、
それでも私は貴方が好いの。
いっそ無自覚に磁石を貼り付けて、引かれ会えたら良いのにな。
二度と離れられないくらい強力なやつで。
『遠い約束』
いつか君が死ぬ時は僕が看取ってやろうという約束、
結んだことを君は覚えていないのだろうね。
まだ生まれたばかりの君と結んだ、大切な大切な約束。
決して君を独りでは逝かせないという約束。
僕たちは皆、人間とそのような約束を結ぶのだけれど、
人間はそのことを覚えていないものだから、
死神だなんだと言って恐れるのだ。
死とは僕たちが運ぶものではなく、
初めから君たちが持っているものだというのに。
遠い約束を果たしに行こう。
どうしようもない君を看取りに行こう。
君がどんなに立派でも間抜けでも、
僕たちは等しく君たちの元へ訪れる。
約束は守るよ。
だから安心して、良い夢を。
『新しい地図』
なんだい、そんな古ぼけた地図抱きかかえて。
こっちの新しい地図をやろう。
見てご覧、これは分かりやすくて間違えることもない。
迷うことなく最短で目的地へと辿り着けるのさ。
ほら、そんな古い地図はもう捨ててしまいなさい。
そんな地図じゃあ、目的地も分からず無駄に彷徨ってしまうだけだ。
足が疲れて行くのも億劫になってしまうよ。
道に迷って、歩き回って、辿り着けずに時間を浪費する。
そんなのはもう懲り懲りだろう?
どうした。いつまで抱えているつもりだ。
早く手放すんだ、そんなもの。
ごちゃごちゃしていて分かりづらい。
間違いだらけで正確性がない。
無駄が多くて利便性がない。
計画性も現実性も何もない。
そんな子どもが描いた落書きのような役立たずの地図、
とっとと捨ててしまえと言っているんだ!
ああ、そうかい。
君はそんな地図で満足なのかい。
それに散々苦しめられてきたくせに、
手放せないだなんて困ったものだな。
馬鹿馬鹿しい。
『記憶』
人は老いと共に記憶を失っていく。
忘れたいことも忘れたくないことも、
時には自分の息子の顔も孫の顔も、
全て忘れて真っさらになる。
「人は次の人生に向けて記憶をゼロにする。
だから何もかも忘れてしまう。
赤子は何も知らない真っさらな状態だろう?」
そうしてそれからまた、記憶を増やしていく。
人は成長と共に記憶を得ていく。
覚えたいことも覚えたくないことも、
とにかく何でも覚えていく。
「逆に小さい時は自分の中に何にもないから、
とりあえず何でも覚えておこうとする。
記憶っていうのはそういうものなんだな。」
と、先生が話していたことを私は覚えているが、
先生はそんな話をしたことを覚えているのだろうか。
きっといつかは私も忘れてしまう。
だからこうして残しておこうと思ったのです。