『力を込めて』
力を込めて殴ってやったんだ!
元の形が分からなくなるまで殴ってやったんだ!
だって君が悪かったから。
僕を怒らせた君が悪かったから
だから殺意を持って君を殴った。
悪かったとは思ってるよ。
そんなに殴るつもりはなかったんだ。本当さ
でも一度込めたら中々消えなくて
殺意はきっと愛を含んでいて
それが心地良かったんだ。
それでもね、
僕は別に君を傷つけたかったわけではないし
君に嫌われたかったわけでもない。
信じられないかもしれないけれど、
君のことを愛しているんだ。本当に
込めた力は愛なんだ。
受け取ってくれてありがとう
大好きだよ。
『巡り会えたら』
いつかいつの日にか
貴方とまた巡り会えたとしても、
私は貴方のことなんて忘れて
呑気に笑っているかもしれない。
その時はどうか頬を撫でてね。
貴方の手の温もりはきっと忘れないはずだから。
だけどもし、それでも私が気がつかなかったら。
その時はどうぞ私を殴って。
打って。蹴って。踏んで。切って。刺して。焼いて。
気が済むまで貴方の好きなようにして。
それでも気がつかないようなら、
きっとそれはもう私ではないのだわ。
だからその時は、ね、分かるでしょう。
その時は貴方がそれの心臓を止めるの。
それじゃあどうか、また巡り会えますように。
貴方の幸福を願っているわ。
『秋恋』
この季節、私は世界で一番美しく在れる。
どんなに強く輝いていたって、
見えなければ無いのと同じでしょう?
私だけがここに在る。
他の奴らなんて目じゃ無いわ。
今この場にいるものたちの中で、私が一番輝いている。
だからどうか目移りしないで
南の空を見つめなさい。
18番目の輝きだって、今ばかりは一等綺麗な筈だから。
秋の夜は魚の口に恋をする。
フォーマルハウトはすぐそこに。
『時間よ止まれ』
時間よ止まれと君が願うから、
世界の時計を壊してきた。
時計の針はもうどこも指していないよ。
秒分時間に囚われず、生きたいように生きたら良い。
混沌とした不規則な世界で、
君の時間は止まるのだろうか。
『鳥かご』
鳥かごの中から飛び出した鳥が、
いつかここに帰ってくるのではないかと思い、
せっせと水と餌の交換をしている彼女を
鳥かごの中に閉じ込めてしまいたいと思うのだ。