冬山210

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12/14/2023, 11:48:20 AM

『イルミネーション』

綺麗なイルミネーション。
光り輝くクリスマスツリー。
そんな人工物より星空の方がずっと素敵だ。
と、君は言った。

星よりも強い光が今、目の前にあるのに。
君はずっと遠くの、
いつのものかも分からないか細い光に釘付けで。
それがとても憎いと思った。
そして少し羨ましかった。

僕はイルミネーションで満足できてしまう男だ。
何光年の星空にロマンを感じる人間ではない。
ないものねだり。
君の目には何が見えているのだろう。


ふと君の視線を追って、暫く星空を眺めた後、
再度イルミネーションに目を向けた僕は、
その光の強さに思わず目を瞑ってしまった。
何故か先ほどまでの美しさを感じられない。

君の思考が僕の頭の中でぐるぐると回る。
『そんな人工物より星空の方がずっと素敵だ』?
そうなのだろうか。
そんなはずはない。
そんなはずはないのか?
そうなのだろう。

誰かが飾りつけた大量の電球。
地球に届くいつかの光。
どちらの方が素敵かなんて、僕に分かることではない。

12/13/2023, 11:29:21 PM

『愛を注いで』

愛を注いであげましょう。
海のように広い心で、海のように深い愛を。

器が壊れていて受け止めきれないというのなら、
その器を包み込めるくらいの愛をあげる。

継ぎましょう。
金ではなく、愛で。
穴もヒビも全て塞いで、
もう何もこぼれ落ちないように。

そうして貴方の器の準備ができたとき、
再び愛を注ぎましょう。
今度はきっと溢れんばかりの愛を。
貴方はただ、注がれた愛に溺れていれば良い。

12/1/2023, 7:22:31 AM

『泣かないで』

君に泣かないで欲しかったのは、
「君には笑顔が似合うから」だとか、
「君が泣いてると僕も悲しくなるから」だとか、
そんな優しい理由じゃない。
そんな優しい理由じゃなかったんだ。

ただ僕は、泣いている君を慰めるのが面倒だった。
億劫だった。
君の気持ちなんて少しも理解できなかったし、
どうしたら泣き止むのかも分からなかった。
君の泣き声がどうにも耳障りで、
殺意のようなものすら感じていた。

だから、僕のために、君のために、
僕と君のために、
泣かないで欲しかったんだ。

10/25/2023, 3:53:06 AM

『行かないで』

行かないで欲しかったんだ、本当は。
繋いだ手を離さないで欲しかった。
このままずっと抱きしめていて欲しかった。
叶うことならずっと、貴方の声を聞いていたかった。

 ねぇ、お国のことも何もかも放り投げて、
 このままどこか遠いところへ逃げてしまわない?
 誰の目も届かぬところで二人きりで暮らすの。
 そうして貴方は老いて死ぬの。
 私もきっと、老いて死ぬから。

いつの日か酔って吐いた戯言を貴方はずっと覚えてた。
だから私に触れるとき、そんな顔をしたのでしょう。
言わなきゃ良かった。
そんな目で見られたくて言ったんじゃない。

9/24/2023, 2:30:04 AM

『ジャングルジム』

ジャングルジムのてっぺんから落っこちた、
あの子のことを覚えている。

ママたちが悲鳴をあげて駆け寄った。
ミカちゃんのママが救急車を呼んだ。
アオくんのママは私たちを近づかせないようにした。
あの子のママは、ただあの子のそばで泣いていた。
ユウカちゃんのママがあの子のママに声をかけていた。

覚えている。
あの子のママの泣き叫ぶ声。

覚えている。
あの子が地面に落ちた時の音。

覚えている。
……あの子、わざと落ちたんだよ。

ジャングルジムのてっぺんに登るあの子を、
私は遠くから見ていた。
あの子はてっぺんまで辿り着いて嬉しそうだったけど、
ママたちは誰もあの子のことを見ていなかった。
だからあの子は「きゃっ」と小さな悲鳴をあげて、
てっぺんにつけていた足を滑らせたかのように見せて、
地面に打ち付けられにいったのだ。

私はそのことをママに伝えたけれど、
「わざと落ちるわけがない」と信じてもらえなかった。

あの頃からあの子はそういう子だったのだ。

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