冬山210

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『ジャングルジム』

ジャングルジムのてっぺんから落っこちた、
あの子のことを覚えている。

ママたちが悲鳴をあげて駆け寄った。
ミカちゃんのママが救急車を呼んだ。
アオくんのママは私たちを近づかせないようにした。
あの子のママは、ただあの子のそばで泣いていた。
ユウカちゃんのママがあの子のママに声をかけていた。

覚えている。
あの子のママの泣き叫ぶ声。

覚えている。
あの子が地面に落ちた時の音。

覚えている。
……あの子、わざと落ちたんだよ。

ジャングルジムのてっぺんに登るあの子を、
私は遠くから見ていた。
あの子はてっぺんまで辿り着いて嬉しそうだったけど、
ママたちは誰もあの子のことを見ていなかった。
だからあの子は「きゃっ」と小さな悲鳴をあげて、
てっぺんにつけていた足を滑らせたかのように見せて、
地面に打ち付けられにいったのだ。

私はそのことをママに伝えたけれど、
「わざと落ちるわけがない」と信じてもらえなかった。

あの頃からあの子はそういう子だったのだ。

9/24/2023, 2:30:04 AM