『窓越しに見えるのは』
窓越しに見えるのは、君の悲しげな表情。
背の低い君は人混みに消されてしまいそうで、
けれども僕の目にはきちんと見えていた。
僕の目には君しか見えていなかった。
どれだけ周囲に人がいても、
いつだって君の姿はすぐに見つけられる。
君はいつも輝いていて、他の人とは異なっていた。
僕はきっとどこへ行ったって君のことを見つけられる。
何度だって君の元に帰ってこられる。
だから大丈夫。何も心配は要らないんだ。
これから僕は少し遠くに行くけれど、
帰りがいつになるかは分からないけれど、
それでもきっと、必ず僕は戻ってくるから。
どうか笑顔で送り出してくれ。
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窓越しに見えるのは、貴方の儚げな表情。
今にも消えてしまいそうで、
二度と会えなくなってしまいそうで、
私は、本当は貴方のことを送り出したくはなかった。
貴方はいつも「大丈夫だ」って言うけれど、
「何も心配は要らない」って言うけれど、
それが強がりであることくらいとっくに知ってるのよ。
誰よりも不安なのは貴方なんでしょう?
誰よりも諦めているのは貴方なんでしょう?
その言葉は私を安心させるためのものじゃない。
そうやって自分に言い聞かせているだけなんでしょう?
だから心配なの。心配するの。
貴方を一人にさせたくないの。
どうか無事に帰ってきて。
どうか、どうか、貴方の笑顔を私に見せて。
そんな作り笑いじゃない、心からの笑顔を。
『赤い糸』
運命の赤い糸ってのは、元々縄だったらしい。
小指じゃなくて足首に付いてたんだってさ。
神様が誰と誰を結ばせるか決めていて、
その目印が赤い縄なんだ。
それは何があっても切れない。
だから運命なんだな。
中国から日本に入ってきた考え方で、
縄が糸に、足首から小指にと変わったわけだが。
足首に縄の方が丈夫で良いんでねぇかね?
小指の糸なんて簡単に切れそうだし、絡まりそう。
寧ろそれが狙いなのかしら。
運命なんて変えられる、変えてしまいたいっていう人が多かった故、脆い小指の糸になったのでしょうか。
足首に縄って枷みたいだよね。
そっちの方が離れられなそうで好きだな。
『ここではないどこか』
ここではない、どこか遠いところから来たの。
だから迎えを待っている。
いつの日か、かぐや姫のように迎えが来るのよ。
ここが私に合わないのは、
ここは私が生きるべき場所じゃないから。
だから仕方ない。
上手くいかなくて当然なの。
ここではないどこか遠いところでは、
きっと私はなんだってできるのよ。
なんだってできるから妬まれて、
ここに堕とされてしまったの。
いつか、いつか迎えが来る。
その時をただじっと待つわ。
それが救いだと信じて。
『1年後』
1年後、僕は君の隣にはいない。
諦めてしまったことをどうか許して欲しい。
「君を一生幸せにするよ」
そう言ったのは僕だった。
そして君と契りを交わしたんだ。
でも、きっと君は泣いているんだろうね。
全然幸せになんてできなかった。
一生幸せにする、なんて僕には無理だったんだ。
その気持ちは嘘じゃないけれど。
君にはずっと笑顔でいて欲しかったから、
本当のことは話せなかった。
君を巻き込みたくなかったんだ。
……いや、違うね。
君といる時間をそんなことに割きたくなかっただけだ。
君と二人でいる時は、幸せのままでいたかった。
きっと君は自分のことを責めてしまうのだろう。
でもそれは違うよ。君は何も悪くない。
話さなかったのは僕だし、悪いのも僕だ。
君が僕のことを大切にしようとしてくれていた以上に、
僕が君のことを大切にしたかった。
ごめんね。
君のことを幸せにすることはできなかったけど、
僕の人生は君がいたことで最期まで幸せだった。
どうか君は長生きしてね。
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6月17日に書いたお題『1年前』の男性視点。
よければそちらも併せてどうぞ。
『子供の頃は』
子供の頃はとても楽しかったの。
そう、楽しかった。
世界は希望で溢れてて、
まだ見ぬ何かに思いを馳せて、
いつか王子様が迎えに来るのを待っていた。
不思議な力が突然目覚めたり、
魔法も超能力もきっとどこかで存在していて、
そうでなくともラブコメみたいな世界が広がっていて。
これは何度だって言うけどね。
私は幼稚園児の頃から少女漫画を見てきたんだ。
何がリアルで何がフィクションかなんて、
判別できる訳ないだろ。
無知で幼気な痛い少女を責めないでやってくれよな。
まぁ、そんなこんなで。
歳を重ねるたびに僕は、
現実というものを知っていったわけです。
漫画の中みたいなことは起こらないのです。
漫画以上のことが起こったりもするけど。
子供の頃は楽しかったな。
あの頃の僕は何だって純粋に、本当に心から信じてた。
あり得ないことも可笑しいことも間違ったことも、
何だって良かったんだ。
無邪気に楽しめてたんだ。
僕が生きてるのは現実だから、
現実のことを知らないと恥をかくけれど。
それでも現実のことを知らない方が、
知らないままでいた方が楽しかったのかもしれない。
今日も今日とて子供になりたい。