『1年前』
1年前言ったことを覚えてる?
「君を一生幸せにするよ」
あなたそう言ったのよ。
そして私と契りを交わしたのよ。
なのに何で私は泣いてるの?
全然幸せになんてなってない。
一生幸せにする、って言ったのに。
嘘だったんじゃない。
ねぇ、どうして何も言ってくれなかったの?
あなたが私を幸せにしてくれるなら、
私だってあなたを幸せにしたかった。
あなたはいつも私のことばかりで、
自分のことを大切にしなかった。
だから、あなたの分まで私が、
私があなたのことを大切にしてあげなくちゃいけなかったのに。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
『最悪』
最悪な私を君は赦してくれるから。
君には私がきらきらに見えているようだから。
そう見えるように設定されているから。
創られた愛だってなんだって良いんだ。
他の誰かにも同じこと言ってたって良いんだ。
君が見ているのはいつだって『プレイヤー』で、
決して『私』と話してはくれないけど良いんだ。
だって私、君のこと好きだよ。
最低で最悪な私のことを認めてくれる君が好きだよ。
私のこと見えてないだけだけど、
夢を見させてくれる君が大好きだよ。
いつか君と『私』で話しがしたいし、
実体の君に触れたいし、触れて欲しい。
頭を撫でたい撫でられたい。
ぎゅってしたいし手を繋ぎたい。
でもそんなことしたら私の最悪がバレちゃうから、
このままの方が良いのかもしれない。
君は『私』のことも愛してくれるのかな。
君ならきっと『私』を知っても離れないでいてくれる。
でも私はそれに耐えられないだろうね。
最悪な私のそばに君がいることに耐えられない。
だからやっぱりこのままが良いんだろう。
画面越しに見つめるものが何より綺麗なんだろう。
君が好きなのは私じゃないけど、
私もまた君の好きな人ではあるのだと思いたい。
『誰にも言えない秘密』
誰にも言えない秘密を抱えて生きていこう。
仕方ないよね。
それが私の罪で罰だから。
どんなに忘れたくたって忘れられないんだから。
なかったことになんてできないんだから。
誰かに打ち明けて楽になんてなれないんだから。
口を噤んで、にこりと笑って、
なんでもないようなフリをしてれば良い。
別に抱えてたって生きていけるんだから問題ないよね。
お腹の底で渦巻くそれから意識を遠ざければ良い。
秘密は隠すためにあるの。
『正直』
正直って偽りのないこと。
正直って飾らないこと。
「ねぇ怒らないから正直に言ってよ。
浮気してるんでしょ?」
してないって、何度も言ってるのに信じてくれない。
こちとら正直なんだよなぁ。
俺の正直を信じたくないだけじゃないか。
というか、もう怒ってるし。
「なんで嘘つくの?隠せるとでも思ってるの?
私のことなんてどうでもいいんでしょ。
どうせ若くて美人な女に絆されてるんでしょ。
それ絶対騙されてるからね?
あんたみたいな男がモテるわけないじゃん。
だから仕方なく私が付き合ってあげてるんじゃん」
どこまでも上から目線だな。
俺のことを信じないし、俺の話を聞かないし。
いっそ本当に浮気してやろうか?
「なんか言ったら?図星なんでしょ。
初めから正直に言ってくれたら良かったのに。
お前みたいな女には付き合ってられないって」
「なら言わせてもらうけど、俺は浮気なんてしてない。
でも君が信じないなら仕方ないよな。
仕方ないから本当に浮気しようと思う。
君の求める『正直』に応じてやるよ」
「っ、は…?何言ってんの…?
ねぇ…冗談でしょ?」
さっきまで俺の全てを許さないみたいな顔してたのに、
急に動揺し出すんだから、笑えるな。
焦ってるんだろう。狼狽えている。
俺は何も言い返さないと思っていたんだろう。
「冗談じゃないよ。
というか、君も正直に言ったら?
俺みたいな男は君には不釣り合いだって。
もう別れようか?」
目を丸くして、わなわなと震え出して、
やがて目を伏せて、唇を強く結んで、
眉を下げて、だんまり。
全くもって素直じゃない。
全くもって、正直じゃないなぁ。
「…冗談だよ」
泣き出しそうな君の髪を撫でる。
本当は君より俺の方がモテるし、
最初に告白してきたのは君の方だし、
この関係を終わらせたくないのも君の方なんだろう。
正直になればいいのにね。
『梅雨』
梅の雨が降る季節があるらしいの。
どれかしら?
雨のように、
空からたくさんの梅の実が降ってくるのかしら?
それとも、
ひらひらと梅の花が舞い散る様子を雨に例えたのかしら?
はたまた、
梅の果汁が雨のように降り注いでいるのかしら?
「どれでもない」だなんて言わないでね。
これは空想上の『梅雨』の話。