冬山210

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『正直』

正直って偽りのないこと。
正直って飾らないこと。


「ねぇ怒らないから正直に言ってよ。
 浮気してるんでしょ?」

してないって、何度も言ってるのに信じてくれない。
こちとら正直なんだよなぁ。
俺の正直を信じたくないだけじゃないか。
というか、もう怒ってるし。


「なんで嘘つくの?隠せるとでも思ってるの?
 私のことなんてどうでもいいんでしょ。
 どうせ若くて美人な女に絆されてるんでしょ。
 それ絶対騙されてるからね?
 あんたみたいな男がモテるわけないじゃん。
 だから仕方なく私が付き合ってあげてるんじゃん」

どこまでも上から目線だな。
俺のことを信じないし、俺の話を聞かないし。
いっそ本当に浮気してやろうか?


「なんか言ったら?図星なんでしょ。
 初めから正直に言ってくれたら良かったのに。
 お前みたいな女には付き合ってられないって」


「なら言わせてもらうけど、俺は浮気なんてしてない。
 でも君が信じないなら仕方ないよな。
 仕方ないから本当に浮気しようと思う。
 君の求める『正直』に応じてやるよ」

「っ、は…?何言ってんの…?
 ねぇ…冗談でしょ?」

さっきまで俺の全てを許さないみたいな顔してたのに、
急に動揺し出すんだから、笑えるな。
焦ってるんだろう。狼狽えている。
俺は何も言い返さないと思っていたんだろう。


「冗談じゃないよ。
 というか、君も正直に言ったら?
 俺みたいな男は君には不釣り合いだって。
 もう別れようか?」

目を丸くして、わなわなと震え出して、
やがて目を伏せて、唇を強く結んで、
眉を下げて、だんまり。
全くもって素直じゃない。
全くもって、正直じゃないなぁ。


「…冗談だよ」

泣き出しそうな君の髪を撫でる。
本当は君より俺の方がモテるし、
最初に告白してきたのは君の方だし、
この関係を終わらせたくないのも君の方なんだろう。
正直になればいいのにね。

6/2/2023, 2:02:52 PM