『優しさ』
「君にはこれが似合うよ」って言ったのは、
優しさなんかじゃなくてもっと醜いもので、
彼奴の好みの格好なんてさせたくなかったからなんだ。
『こんな夢を見た』
お姫様になる夢を見た。
少女漫画みたいな恋をして、
好きな人と結ばれる夢を見た。
魔法使いになる夢を見た。
探偵になる夢を見た。
小説家になる夢を見た。
二次元へトリップする夢を見た。
どこかに自分の分身が存在している夢を見た。
実況者になる夢を見た。
小説家になる夢を見た。
いつか誰かが救ってくれる夢を見た。
ニートになる夢を見た。
自分が考えた作品が世に出る夢を見た。
小説家になる夢を見た。
推しに終わらせてもらう夢を見た。
もの好きな愛好家に飼われる夢を見た。
楽に生きていく夢を見た。
夢を見る夢を見た。
夢を見る夢を見た。
小説家になる夢を見た。
『君に会いたくて』
君に会いたくて絵を描くんだ。
君に会いたくて言葉を綴る。
君は此処にしかいないからさ。
私の中から出ておいで。
その姿を見せて欲しい。
私は君に会いたいの。
心の中だか頭の中だか、
何処にいるのかは分からないけど。
君は私の中を巡って満たしてくれている。
血液のように、ならば、血管の中にいるのかもね。
出ておいで。
血管の中にいるのなら、
指先が切れたら君は溢れ出してしまうのだろうか。
勿体無いからやめてくれ。
そうだ、勿体無いな。
私は君をたくさんの人に見てもらって、
たくさんの人の心の中に君の居場所を作りたいんだ。
いつか私が息を止めても、
誰かの中で君が生きれるように。
私と一緒に心中なんてして欲しくない。
けど、君が誰かに知られてしまったら、
私だけの君じゃなくなってしまうのだろう。
誰かの中で生きる君は、
私の知る君ではなくなってしまうのだろう。
それは少し、かなり、とても、嫌だなぁ。
やっぱり一緒に…………とも思うけど、
君に死んで欲しくはないんだ。
君に会いたいな。
君に。
君って、誰だろうね。
ちゃんと決めてもないのに会いたいだなんて、
言わないで欲しいよね。
ごめんね。
『20歳』
20歳が何だ。
大人が何だ、成人が何だ、何だっていうんだ。
今や100年だって生きれる時代だぜ?
人生の5分の1を生きただけで大人になれると?
僕は確かにこの世に生まれて20年経ったらしいけど、
中身の成長速度は人によって違うわけで。
経験不足な私はずっと子どものままだ。
なんて、「大人になりたくない」なんて、
言ってられるのも今のうちで。
30越えても40越えても、50、60、越えてもずっと、
「大人になりたくない」なんて
言い続けてるのかと思うと恐ろしくなる。
きっとその頃には、「子どもに戻りたい」って
言うようになるのだろうな。
まぁ、けれど、20年も生きてるのかと思うと、
私って頑張ってるよなと思います。
恵まれてるだけだ。
自分の力で生きてるわけじゃない。
それでも偉いよ。偉い偉い。
みんな偉いよ。20年も生きててすごい。頑張ったね。
『雪』
あれは確か小学五年生の頃。
雪が積もっていた二日間だけ、
一緒に遊んだ男の子がいたんだ。
ここでは仮に「《琴羽(ことは)》くん」と呼ぼう。
その日、私は友達と一緒にある公共施設に行っていた。
そして同じく来ていた顔見知りの同級生と、
初対面で学年が一つ上の琴羽くんと一緒に、
施設の周りの雪かきをすることになったのだ。
顔見知りの同級生とすらまともに話せないような私は、
当然初めて会った琴羽くんとも上手く話せなかった。
一つ上の学年のかっこいい男の子。
それだけで緊張していたし、同時に憧れもした。
雪かきとは言いつつも、
集めた雪で雪合戦をしたり雪だるまを作ったりと、
それはもう楽しい時間だった。
初対面の人と一緒に遊ぶなんて今では考えられないが、
走り回っている内に緊張もほぐれていたのだろう。
とはいえもうお別れの時間となってきたとき、
彼は「明日も遊ばないか」と私達に提案してきた。
そうして私達は翌日も一緒に遊んだのだ。
彼の家が施設の近くにあったため、
そこに残っていた雪で小さな雪だるまを大量に作った。
「丸くするのが上手い」と褒められた記憶がある。
何だかそれがとても嬉しかったんだ。
琴羽くんと遊んだのはその二日間だけだ。
それからは学校で会うことも施設で会うこともなく、
彼は卒業し、中学生になっていた。
翌年同じ中学校に私も入学したわけだが、
会うこともなければ名前を聞くことすらなかった。
昔たった二日間だけ遊んだ相手。
例えそのこと自体は覚えていたとしても、
相手の名前や顔は忘れてしまっているものだろう。
私が琴羽くんのことを覚えているのは、
当時の私が彼に小さな恋心を抱いていたからだ。
彼は今どこで何をしているのだろうか?
恋心を抜きにしても、
あの二日間はとても楽しい時間だった。
子どもの頃の思い出として、
美化してしまっているだけなのかもしれないけれど。