冬山210

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『雪』

あれは確か小学五年生の頃。
雪が積もっていた二日間だけ、
一緒に遊んだ男の子がいたんだ。


ここでは仮に「《琴羽(ことは)》くん」と呼ぼう。

その日、私は友達と一緒にある公共施設に行っていた。
そして同じく来ていた顔見知りの同級生と、
初対面で学年が一つ上の琴羽くんと一緒に、
施設の周りの雪かきをすることになったのだ。

顔見知りの同級生とすらまともに話せないような私は、
当然初めて会った琴羽くんとも上手く話せなかった。
一つ上の学年のかっこいい男の子。
それだけで緊張していたし、同時に憧れもした。

雪かきとは言いつつも、
集めた雪で雪合戦をしたり雪だるまを作ったりと、
それはもう楽しい時間だった。
初対面の人と一緒に遊ぶなんて今では考えられないが、
走り回っている内に緊張もほぐれていたのだろう。

とはいえもうお別れの時間となってきたとき、
彼は「明日も遊ばないか」と私達に提案してきた。
そうして私達は翌日も一緒に遊んだのだ。

彼の家が施設の近くにあったため、
そこに残っていた雪で小さな雪だるまを大量に作った。
「丸くするのが上手い」と褒められた記憶がある。
何だかそれがとても嬉しかったんだ。


琴羽くんと遊んだのはその二日間だけだ。
それからは学校で会うことも施設で会うこともなく、
彼は卒業し、中学生になっていた。
翌年同じ中学校に私も入学したわけだが、
会うこともなければ名前を聞くことすらなかった。

昔たった二日間だけ遊んだ相手。
例えそのこと自体は覚えていたとしても、
相手の名前や顔は忘れてしまっているものだろう。
私が琴羽くんのことを覚えているのは、
当時の私が彼に小さな恋心を抱いていたからだ。

彼は今どこで何をしているのだろうか?
恋心を抜きにしても、
あの二日間はとても楽しい時間だった。
子どもの頃の思い出として、
美化してしまっているだけなのかもしれないけれど。

1/8/2023, 1:10:23 AM