冬山210

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1/8/2023, 1:10:23 AM

『雪』

あれは確か小学五年生の頃。
雪が積もっていた二日間だけ、
一緒に遊んだ男の子がいたんだ。


ここでは仮に「《琴羽(ことは)》くん」と呼ぼう。

その日、私は友達と一緒にある公共施設に行っていた。
そして同じく来ていた顔見知りの同級生と、
初対面で学年が一つ上の琴羽くんと一緒に、
施設の周りの雪かきをすることになったのだ。

顔見知りの同級生とすらまともに話せないような私は、
当然初めて会った琴羽くんとも上手く話せなかった。
一つ上の学年のかっこいい男の子。
それだけで緊張していたし、同時に憧れもした。

雪かきとは言いつつも、
集めた雪で雪合戦をしたり雪だるまを作ったりと、
それはもう楽しい時間だった。
初対面の人と一緒に遊ぶなんて今では考えられないが、
走り回っている内に緊張もほぐれていたのだろう。

とはいえもうお別れの時間となってきたとき、
彼は「明日も遊ばないか」と私達に提案してきた。
そうして私達は翌日も一緒に遊んだのだ。

彼の家が施設の近くにあったため、
そこに残っていた雪で小さな雪だるまを大量に作った。
「丸くするのが上手い」と褒められた記憶がある。
何だかそれがとても嬉しかったんだ。


琴羽くんと遊んだのはその二日間だけだ。
それからは学校で会うことも施設で会うこともなく、
彼は卒業し、中学生になっていた。
翌年同じ中学校に私も入学したわけだが、
会うこともなければ名前を聞くことすらなかった。

昔たった二日間だけ遊んだ相手。
例えそのこと自体は覚えていたとしても、
相手の名前や顔は忘れてしまっているものだろう。
私が琴羽くんのことを覚えているのは、
当時の私が彼に小さな恋心を抱いていたからだ。

彼は今どこで何をしているのだろうか?
恋心を抜きにしても、
あの二日間はとても楽しい時間だった。
子どもの頃の思い出として、
美化してしまっているだけなのかもしれないけれど。

1/6/2023, 9:56:47 PM

『君と一緒に』

はじまりは小学五年生の時。
同じクラスになった君は友達の友達だったから、
一緒に遊ぶようになったんだ。

小学六年生の時。
私は君から「同じクラスだ」と知らされた。
友達の友達だった私達は、とっくに友達になっていて。
お互い慣れない人と話すのは苦手だったから、
いつだって一緒にいたんだ。


中学一年生の時。
君と同じクラスになれた。
他にも仲の良い友達が数名いたため、このクラス分けはある程度仕組まれたものだったのだと思う。
私は君と一緒にいた。

中学二年生の時。
君と同じクラスになれた。
他の友達とは別のクラスになってしまったため、
いっそう君と二人でいるようになった。

中学三年生の時。
君と同じクラスになれた。
最早ここまで来ると、学校側から
「この二人は一緒のクラスじゃないと駄目だ」
と思われていたのではないだろうか。
他の友達も同じクラスだったが、
それでも君と一緒にいることに変わりはなかった。


高校一年生の時。
君と同じクラスになれた。
他の友達や同じ中学だった人達も一緒だったため、
これも多少はそうなるように仕組まれていたのだろう。
当然私は君と一緒にいた。

高校二年生の時。
君と同じクラスになれなかった。
他の友達ともクラスが離れてしまった。
六年間君と一緒にいた僕には友達の作り方なんて分からなかったから、一人でいることを選んだ。
君とは登下校を共にしていたし部活も同じだったけど、
私が君と一緒にいる時間は明らかに減った。

高校三年生の時。
君と同じクラスになれた。
一緒に登校して、一緒の教室へ行き、
授業が始まるまでの時間を一緒に過ごし、
一緒に昼食をとり、一緒に部活へ行き、一緒に帰った。
私は君とずっと一緒にいた。


大学生。
君と違う大学へ通っている。
友達の作り方を知らない私に大学で友達はできない。
私も君も他の友達も地元から出てはいないため、
一緒に遊ぶことは割と頻繁にある。
とはいえ、君と一緒にいる時間は極端に少なくなった。

きっとこれから先、社会人になったら、
一緒にいる時間は更に減っていくのだろう。



私にとって君は友達で、客観的に見れば親友で、
けどそれよりもずっと深い。
家族の次に気を許せる相手。
普通の友達とは違う特別な存在。

この先もずっと私は君と一緒にいたいんだ。
なんて、依存していて重いよな。

12/19/2022, 7:27:57 AM

『冬は一緒に』

冬は一緒にいてください。
春も夏も秋も我慢するから、冬くらいは一緒に。
だって寒いでしょう?
ひとりぼっちでは凍えて死んでしまうでしょう?
だから隣にいてください。
一緒に冬を乗り越えようよ。

雪だるまを作りましょう。君にそっくりな。
そしたら寂しくないかしら。
でも残念、雪なんて降らないの。
こんなにも寒いのにね。

春になったら暖かくなるだろうか。
冷たくなって動かないあなたも春の温度に溶かされる?
そうだといいな。そうだとな。

12/1/2022, 10:52:19 AM

『距離』

距離がある。
距離があるな。
君と私には距離がある。
隣にいるのにいつだって君は僕より先にいるようだ。

事実距離がある。
君は僕より早く大人になるし、
僕がいなくても平気らしい。
僕だってまぁ、君がいなくても死にはしないけど。

距離がある。
埋まらない距離が埋まらない。
埋めたいわけでもないけれど、一人ぼっちは嫌だから。
君に隣にいて欲しいんだ。
あんまり遠くへ行かないで。

私がここにいる内に君は先へ行ってしまう。
停滞していたいのに。変わらない方が楽なのに。
子どものままが幸せなのに。それは私だけなんだ。

一緒に居てはくれないの。
距離は広がるばかりなの。
仕方がないから私は自分で自分を慰める。

置いていかれることよりも、
変わることの方が苦痛だから。

11/29/2022, 8:01:09 AM

『終わらせないで』


「中途半端に終わらせないで。
 作るならちゃんと最後まで作って。

 あんたが勝手に産み出したんだから、
 責任持って墓に入るまでを描いてよ。

 誰も俺のことは知らないんだ。
 俺たちのことはさ。

 あんたしか知らないんだよ。
 これからの俺のことも、これまでの俺のことも、
 知っているのはあんただけなんだ。
 決められるのはあんただけなんだ。
 俺ですらないんだよ。

 あんたにしか続けさせられないし、
 あんたにしか終わらせられないんだ。
 あんたが終われば俺たちも終わるんだ。
 あんたの命はあんただけのものじゃないんだよ。
 それが俺たちの命なんだよ。

 だから終わらせないで。
 終わらせるなよ。
 あんたが生きてる限り俺たちは、
 停滞してたって生きてるんだから。

 あんたは俺の死を決めてるらしいけど、
 描かれない限り実行はされてないから。
 それにあんたは俺の来世を決めてるし。
 どんだけ俺のこと好きなの。気持ち悪い」

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気持ち悪いだって。言われちゃった。
また無理やり引っ張り出して口開かせたから。
いつもこんな役割ばかりだね。ごめんね。

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