冬山210

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11/5/2022, 3:56:44 PM

『一筋の光』

一筋の光が、蜘蛛の糸のように垂れてきたから。

私はそれを絡めとり、
どうにか登れないものかと考えた。

けれども当然光は捕まえられなくて、
するりと指をすり抜けていく。

それが何とも不思議に思えた。
熱もない、形もないものが、確かに指をすり抜ける。

これは助けではないのだ。
これは救いではないのだ。
窓から差し込んだだけの、ただの光。

この先の私の人生を照らしてくれるわけでもない。
これまでの私の人生を包み込んでくれるわけでもない。

それでも例えば、
今この瞬間私の瞳を少しでも輝かせてくれるのなら、
この光にも価値があるのだと思えるだろうか。
意味があるのだと、思えるだろうか。


いつか、いつかあなたが、私に救いの光をくれるの。
今はただそれを待つわ。

10/28/2022, 9:53:26 AM

『紅茶の香り』

紅茶の香りに誘われて
迷い込んだのは森の中。

子ウサギが足元で跳ねたから
「アリスみたいね」と追いかけた。

辿り着いたのはボロ屋敷。
蜘蛛の巣と苔に包まれた
不思議の国とはほど遠い
忘れ去られた誰かのお家。

こんこんこんと扉を叩き
「誰かいませんか」と尋ねてみても
返事はひとつもありゃしない。

それではつまらないじゃない?

紅茶の香りは消えていない。
腐った扉を開くのに合言葉はいらない。
蜘蛛の巣と苔に包まれた
不思議の国とはほど遠い
ボロ屋敷へと迷い込もう。


これは私の物語。
アリスとは違う物語。
紅茶の香りに誘われて
彷徨う私の物語。

10/14/2022, 9:34:05 AM

『子供のように』

子供のように振る舞う私を受け入れてくれる人がいる。

もう大学生だけれど、私は末っ子なわけで。
家の中での私は甘えることを許されている。
それがとても有難い。


私にはたった二人だけしか友達がいないけれど、
その二人とは小学生の頃からの仲でして。

もう大学生なのに、お手手で狐作って遊ぶのよ。
ぱくぱく口を動かして、相手のお耳を食べちゃうの。
「うわぁ〜!」って悲鳴をあげてるの。
子供っぽいよね。
「大学生にもなって何してんだ」って笑い合うの。
それができる相手がいることは幸福だと思う。


もうお酒が飲めちゃう歳だけれど、
いつまで経っても精神年齢は幼稚園児みたいなもので。
外見に合ったことをするのは疲れるの。
年齢に合ったことをするのは苦痛なの。

10/12/2022, 7:18:07 AM

『カーテン』

風でカーテンが大きく膨らんだり、
逆に窓の外へと引かれたりするのを見て、
僕の友達は「カーテンが呼吸している」と言うのです。

素敵な考えだと思った。

9/26/2022, 7:57:03 AM

『窓から見える景色』

窓から見える景色は本物なのだろうか。

窓枠で切り取られた世界は、額縁の中の絵のようで。
どこまでも続く大きな空や、遠くに見える山々が、
本当に実在しているものだとは思えないんだ。

だってあの、いつも見ている住宅街。
昔から変わらずそこにあるけれど、私はそこまで行ったことがないから、どんな人達が住んでいるところなのか全く分からないんだ。

窓から見える景色。
それは行ったことのない場所。
それは名前も分からないような場所。
形だけあって中身が無いの。

想像もできないよ。世界はちょっと広すぎる。

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