冬山210

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『紅茶の香り』

紅茶の香りに誘われて
迷い込んだのは森の中。

子ウサギが足元で跳ねたから
「アリスみたいね」と追いかけた。

辿り着いたのはボロ屋敷。
蜘蛛の巣と苔に包まれた
不思議の国とはほど遠い
忘れ去られた誰かのお家。

こんこんこんと扉を叩き
「誰かいませんか」と尋ねてみても
返事はひとつもありゃしない。

それではつまらないじゃない?

紅茶の香りは消えていない。
腐った扉を開くのに合言葉はいらない。
蜘蛛の巣と苔に包まれた
不思議の国とはほど遠い
ボロ屋敷へと迷い込もう。


これは私の物語。
アリスとは違う物語。
紅茶の香りに誘われて
彷徨う私の物語。

10/28/2022, 9:53:26 AM