『窓から見える景色』
窓から見える景色は本物なのだろうか。
窓枠で切り取られた世界は、額縁の中の絵のようで。
どこまでも続く大きな空や、遠くに見える山々が、
本当に実在しているものだとは思えないんだ。
だってあの、いつも見ている住宅街。
昔から変わらずそこにあるけれど、私はそこまで行ったことがないから、どんな人達が住んでいるところなのか全く分からないんだ。
窓から見える景色。
それは行ったことのない場所。
それは名前も分からないような場所。
形だけあって中身が無いの。
想像もできないよ。世界はちょっと広すぎる。
『形の無いもの』
木々の間を楽しそうに駆けていくのは小さな女の子。
白いワンピースと長い髪を揺らしてる。
屋上とか街灯の上とか、
やたら高い所が好きなのは二人の青年。
一人は極力動かないでいたい無気力系。
もう一人は忍者みたいな動きをする変な奴。
が、いるという設定で俺は大学へ行っている。
姿も見えない形の無いものだけど、
ただの俺の妄想だけど、
それがあるから大学行けてるんだわ。
空想でも良いだろ。
『大事にしたい』
幸いは俺を愛してくれたこと。
俺の駄目なところも悪いところも全部俺は知っているのに、こんな奴消えちゃえって思っていたのに、俺は結局俺を愛してくれた。
消える勇気がなかった代わりに、臆病な私は私が生きやすいように他の道を作ってくれた。肯定してくれた。
最強の味方を作り出したんだ。
他者は怖いし死も怖いけど、俺だけは怖くない。
存分に甘やかして堕落させて、駄目な俺を俺が作って、そうしてできた私を私は愛してくれる。
大事にしたいのは私だけ。
大事にしてくれるのも私だけ。
一番をくれるから、一番を返すの。
『夜景』
夜の景色が綺麗なのは、昼間とは違う姿だから。
人は灯りを手に入れて暗闇を怖がらなくなった。
頭上の星を地上に写してきらきらと光る夜を造った。
『光の海を泳ごう
街灯に照らされて』
眩く光るそれはまるで魔法のようで。
億光年離れていないそれは星よりも明るくて。
はっきりとしない輪郭が淡く、人の営みを象った。
夜景を見に行こうよ。
夜は冷えるから一緒においでよ。
私を一人にするつもりなの?
ね、一緒に行こう。
『胸の鼓動』
授業中、先生に指されるのが苦手だ。
番号順で自分より前の人たちが次々と指されていく。
それを見ている僕の心臓は大きな音を立てる。
どきどき、なんて可愛いもんじゃない。
どっくん!どっくん!
或いは、
ばっくん!ばっくん!
本当に心臓が飛び出してしまうのではないかと思うくらい大きな音が、僕の身体の中で響くんだ。この胸の鼓動が私以外には聞こえていないだなんて、信じられない。
気づけばシャーペンを持つ手が震えている。
生徒を当てていく先生の声が怖くて堪らない。
このようにして私の寿命は削られていくのでした。
胸の鼓動、五月蝿いね。