『もしもタイムマシンがあったなら』
タイムマシンがあったところで、
過去も未来も変えられやしないよ。
俺にはそんな力も勇気もないもの。
俺にできるのは私の頭を撫でてやることくらいだ。
過去へ行って抱きしめてやろう。
「大丈夫だ」と言ってやろう。
きっとそれだけで私は少しだけ楽に生きられる。
『今一番欲しいもの』
完成した期末のレポート。
来週受ける期末テストの答え。
今期の単位。
だが、まぁ、そんな現実的な本音はつまらないな。
今一番欲しいものは、楽園へ行ける権利だ。
極楽浄土でも桃源郷でも理想郷でも何でも良いが、
とにかくそのような場所へ行ける権利だ。
アヴァロンでもイーハトーブでも良い。
善い魂の者が逃れようのない苦しみを抱えていて、
心から「助かりたい」「楽になりたい」と願ったときにメシアが生まれるんだよ。
メシアは神様からの命を受けて願い主を楽園へと導く。
楽園には願い主を害するものは一つもないんだ。
という救世主システムがある世界観の話。
設定を考えるだけ考えて放置している。
文才が欲しいな。作りかけの物語を完成させたい。
必要なのは創作意欲か。
今一番とか、欲しいものが多すぎて選べないわ。
『私の名前』
「名前なんて個人を識別するためのものに過ぎないんだから、識別できるなら何でも良いと思う」
君はそんなことを言っていたな。
どういう会話の流れでそんなことを言われたのか…。
いや、そもそも私と君は会話と呼べるものをあまりしていなかったな。大方、沈黙を破るために君が一方的に話し始めたんだろう。
私はそれに対して何も返さなかった。
ただ、モヤモヤとした気持ちを抱えたのだ。
確かに私は君の名前を呼んだことが一度もなかった。
君が私の名前を呼んだことも一度もなかった。
それどころか、私が君を呼んだこと自体、一度もなかったな。友人との会話の中では渾名で呼んでいたが、直接君に向かって君を呼んだことは一度もない。
対して、君は私のことを何と呼んでいたか…。
渾名…だったかな……。
ああ、そんなことも忘れてしまったのか。
トークは消してしまったからもう見返せないぞ。
ともかく、私たちは互いのことを名前で呼んだことはなかったのだ。これは憶測だが、君は自分の名前があまり好きではなかったのではないかと思う。自ら「自分のことはこう呼んでくれ」とニックネームを提示するような男だったから。
部活内で使っていたニックネームを部活の外にも持ち出していたのは君くらいじゃないのか?部に入る前から使っていた名前なのかもしれないな。
君は友人からは苗字で呼ばれるか渾名で呼ばれるかで、名前で呼ばれることは少なかったんじゃないかな。
まぁ何が言いたいかというとな。
君は名前というものをあまり重要視していなかったが、私にとっては割と大切なものだったらしいんだ。
私は君に、私の名前を呼んでみて欲しかったのだよ。
もう叶わないことだがな。
『私だけ』
私だけが知っている。
私が作ったあの子達のこと。
あの子の重い過去も、あの子の好きな相手も、
世界の仕組みも秘密も、この先の物語も、
全部、私だけが知っている。
いつかそれが、私だけのものじゃなくなったら。
私以外の誰かにもあの子達を知ってもらえたら。
私が死んだ後もあの子達は生きられるんじゃないかと、そう思うんだ。
まだ何もしてないけど、まだ何も始められてないけど、
いつか始められたら良いな。
私だけの物語をみんなにも見て欲しい。
大好きなあの子達のこと、もっとたくさんの人に知ってもらいたい。そして愛してあげて欲しい。
今のままじゃあの子達は、私が死んだら消えてしまう。
誰にも知られず消えてしまう。
きっとどこかの誰かの心に刺さるはずなのに。
そんなの勿体無いよね。
小さな小さな一歩を踏んでみるか。
昨日のあれは時雨美春と冷染麗夏の物語。
それでいて、シグレとレイカの物語。
この二人は前世から結ばれているんだよ。
なんて、書いたところで誰の記憶にも残らない。
いつかちゃんと形にして、ここより広い海に流そうね。
『遠い日の記憶』
君は覚えてないだろう。
女の子に声をかけてばかりの俺を叱ったこと。
嫌なことがあるとすぐ煙草を吸う俺を叱ったこと。
いつまでも母さんのことを引きずっていた俺のことを
叱ってくれたこと。
君が俺のために怒ってくれて、俺のことを思って泣いてくれて、それが何より嬉しかったんだ。
君のおかげで俺の人生は救われたんだ。
最期の時、俺は君を守ったつもりだったんだけど、
多分守れてなかったんだね。
あの後君もやられちゃったんだろう。
悔しいな。君にはもっと長生きして欲しかった。
けど、一緒に終われたからこそ、この平和な世界でまた君と生きていられるんだと思う。
もう君は昔の君じゃない。
かつての出来事を覚えているのは俺だけだ。
それでも、君は相変わらず優しくて、美しくて、厳しくて、俺のことを叱ってくれる。俺の隣にいてくれる。
例え君が何も覚えていなくても、君との時間が無かったことになるわけじゃない。そうでしょ?
ただ、君の隣で君の笑顔を見続けたい。
前世の記憶があろうとなかろうと、今も昔も俺の願いは変わらないんだ。