『空を見上げて心に浮かんだこと』
空は広くて大きくて、遠いよね。
当たり前のように僕らの頭上に広がっている。
空の先に宇宙があることは、
海の底に深海が広がっていることと
同じことだと思うんだ。
深空とでも呼べば良いのにね。
深海も宇宙も未知に溢れているけれど、
人はどれだけ深く、どれだけ高く、
この世界を知ることができるのだろう。
ちょっとだけ悲しくなった。
少しだけ怖いよね。
大丈夫、明日も生きていけるよ。
終わりの日は決まっているのだから。
『朝、目が覚めると泣いていた』
朝、目が覚めると泣いていた。
そんなことが一度でもあっただろうか。
泣くほど悲しい夢も、泣くほど怖い夢も、
多分一度も見たことがない。
……ああ、でも、子どもの頃に一度だけ。
お母さんと一緒の布団で寝てたとき、
怪獣に追いかけられる夢を見たの。
怖くて怖くて、「逃げなくちゃ!」って思って、
必死に手足を動かした。
ふと目が覚めたのだけど、まだ寝ぼけていて、
私は現実でも必死に手足を動かしていた。
そしたらびっくり。
私は走ってるつもりだったんだけど、
横にいるお母さんのことをぽかぽか叩きまくってたの。
お母さんは起きてなかったけど、顰めっ面になってたのを覚えてる。あの時はごめんね。
兎に角そのくらい怖かったの。
子どもだったこともあって、あの時だけは泣いていたのかもしれない。もうずっと昔の話だけれど。
『星空』
学校に泊まったことはあるかい。
夜の屋上に出たことはあるかい。
あれは人生で一番幸せな時間だった。
重たい扉を開けるだろう。
やけに高い段差を上がって外に出る。
少し肌寒い。
長袖のジャージが暖かい。
夜景が綺麗だな。
ずっと向こうの明かりまで見える。
上を見ろよ。頭上を見ろ。
ほら、輝いていらっしゃる。
屋上にヨガマットを敷いて寝そべるんだ。
見てみろよ。その目に焼き付けろよ。
なぁ、プラネタリウムなんか比じゃねぇな?
目を閉じて風の音を聞いた。
目を開けばこの世で一番綺麗な景色が見えた。
幾つもの星々が、きらきらと、きらきらと、眩しい。
こんなにも広い星空を一切の障害物なしに、
見られてしまって良いのだろうか?
贅沢がすぎるぞ天文部。
「夏の大三角の真ん中にいるはずなんだよ」
そう言って君と、こぎつね座を探した。
あの一夜を忘れることはない。
『この道の先に』
この道の先には終わりが待っているのだと、
最近になってやっと気がつくことができた。
私が楽しもうが苦しもうが、泣こうが笑おうが、
いつか必ず終わりの日が来る。
誰にだって等しく、待っているのは死だ。
死にたいと思っていても、生きたいと思っていても、
結局最後はみんな死ぬんだ。
それが何よりも嬉しくて、何よりも安心した。
こんな私でもいつかはちゃんと終われるの。
待ち遠しいね。
今か今かとその日を待つの。
その日が来るまで私は生きるの。
『窓越しに見えるのは』
冬の夜に空を見よう。
灯を消して、カーテンの隙間から外を覗くの。
だんだんと目が慣れてくる……ほら、星が見えた。
分かりやすいでしょう?
オリオン座、おおいぬ座、こいぬ座。
容易く結べる三角形。
星々の輝きがあまりにも綺麗で、私の目は冴えていく。
もっと見たい。もっと近くで星を見たい。
そんな思いから目を凝らす。
窓枠に手をついて、首が痛くなるくらい上を見て、
ただその輝きに目を奪われ、星へ星へと近づくの。
けれど、私と星の間には窓がある。
星へ近づこうとしても実際に近づくのは窓だ。
やがて、
私は窓に唇をぶつける。
私は窓にキスをする。
私は窓越しの星にキスをするの。
窓越しに見えるのは愛しい光。
何光年先で輝く神々しい光。