『君と出逢ってから、私は・・・』
君と出逢ってから、私は私の世界を広げた。
始まりは私だった。君は私だった。
私は私を主人公にして物語を書いた。
君は私の理想を詰め込んだ嘘みたいな女の子。
冗談みたいでぶっ飛んでいて、きらきらしてた女の子。
他人からすれば黒歴史みたいなもんだけど、
私は君を忘れたりなんかしない。
君の物語を無かったことになんてしない。
だって君は私で、私は君なんだから。
あのとき君と出逢ったから、
私は今でも物語を書くのが好きなんだ。
君はもう、主人公ではないけれど。
『大地に寝転び雲が流れる・・・目を閉じると浮かんできたのはどんなお話?』
「羊の雲があるよ」
気づけば一人の少女が隣に座っていた。
俺の目が開いたのを見て、少女は空を指さした。
恐らくその、羊の雲とやらを俺に見せようとしているのだろうが、どの雲も同じに見える。
「昔の人は空に羊がいると思ってたのよ。
羊と仲良しだったから、空にいるのも羊だと思ってた」
「……そんな話どこで聞いたんだよ」
空に羊がいると思ってた?
いくら昔の人だからって、流石に空に羊がいるとは思ってないだろ。
「お空に詳しい先生が教えてくれたの。
羊飼いがお空を見て羊を探していたんでしょう?」
何か間違っているのか?と問うように首を傾げる。
少女は至って真面目なのだろう。本気でその、羊の話を信じ込んでいる。
しかし羊飼い…確かにそんな話、聞いたことがあるような……。
「…お前、それ覚え間違えてるよ。
羊飼いが見てたのはこんな真昼の青空じゃなくて、夜の星空だろ。羊だって言ってたのは雲じゃなくて星。
星座の歴史の話だろ?」
まぁ、羊飼いが星を見ていたというのも、一つの説でしかないが。
少女は星座について先生に教えてもらったのだろう。
そして自分が学んだ知識を他者に教えたかった。覚えたての言葉を使いたがるのと同じだ。
「えー、でも…雲も羊だもの…」
そう言って頬を膨らませる。
その姿が何だか、少し、愛おしい……。
目を覚ますと辺りは真っ暗だった。
いつの間にか夜になってしまっていたようだ。
何か夢を見ていたか…?思い出そうとしても思い出せないし、夜風は冷たい。早く帰らないと風邪を引いてしまいそうだ。
「…お、羊の群れだ」
空にはたくさんの星が出ていた。
『優しくしないで』
頑張ってないから「頑張らなきゃ」って言ったら、
「頑張りすぎないで」って言われた。
貴方が何を知ってるんだよ。
貴方の中の私は頑張ってたのか?
こちとら心機一転頑張るぞの気持ちだったのに、
そんな風に言われたら心揺らいじゃうだろ。
別に頑張りたいわけではないんだからさ。
世界があまりにも優しすぎる。
何もしていない僕に優しくしてくる。
少しくらい鞭を与えなきゃ駄目なのに、
僕は生まれてからずっと飴を与えられている気がする。
甘やかされている。
これ以上優しくしないでほしい。
このままじゃいつか叱られたとき、
耐性がなさすぎて無駄にダメージを受けてしまう。
叱られたくはないけれど、
叱られたことがないのは困るんだよ。
『カラフル』
マーブルチョコとか、ドロップス、グミ、ラムネ。
絵の具、色鉛筆、クレヨン、折り紙、色画用紙。
公園の遊具、遊園地、イルミネーション、花火……。
ランドセル。洋服。髪色。
僕たちは昔から、どんな色が好きかと問われてきた。
自己紹介でもよく言うし、初対面の人との話のきっかけにもなる。当たり障りのない例文。
あまりにもカラフルだ。エメラルドグリーンが好きだなんていう小学生が割といた。金や銀の折り紙は重宝された。赤い上履きは女子みたいで嫌だと言う男子高校生がいた。
僕の記憶は色なしでは語れない。
それは僕の瞳が色を捉えられるからだ。
カラフルを知ってカラフルと共に生きていく。
『楽園』
楽園とは真っ白な空間だ。
ただ地面には一面花が咲いていて、そこで彼女達は微笑むのだ。皆揃いの白いワンピースを着ている。
そこには私を害するものは一つもない。
彼女達を害するものも一つもない。
やさしくて穏やかであたたかくて、儚い。
心地の良い場所。
だけど、ずっと楽園にいて、それで私達は幸せなのだろうか。そこは本当に楽園なのか?