冬山210

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『大地に寝転び雲が流れる・・・目を閉じると浮かんできたのはどんなお話?』


「羊の雲があるよ」

気づけば一人の少女が隣に座っていた。
俺の目が開いたのを見て、少女は空を指さした。
恐らくその、羊の雲とやらを俺に見せようとしているのだろうが、どの雲も同じに見える。

「昔の人は空に羊がいると思ってたのよ。
羊と仲良しだったから、空にいるのも羊だと思ってた」

「……そんな話どこで聞いたんだよ」

空に羊がいると思ってた?
いくら昔の人だからって、流石に空に羊がいるとは思ってないだろ。

「お空に詳しい先生が教えてくれたの。
羊飼いがお空を見て羊を探していたんでしょう?」

何か間違っているのか?と問うように首を傾げる。
少女は至って真面目なのだろう。本気でその、羊の話を信じ込んでいる。
しかし羊飼い…確かにそんな話、聞いたことがあるような……。

「…お前、それ覚え間違えてるよ。
羊飼いが見てたのはこんな真昼の青空じゃなくて、夜の星空だろ。羊だって言ってたのは雲じゃなくて星。
星座の歴史の話だろ?」

まぁ、羊飼いが星を見ていたというのも、一つの説でしかないが。
少女は星座について先生に教えてもらったのだろう。
そして自分が学んだ知識を他者に教えたかった。覚えたての言葉を使いたがるのと同じだ。

「えー、でも…雲も羊だもの…」

そう言って頬を膨らませる。
その姿が何だか、少し、愛おしい……。





目を覚ますと辺りは真っ暗だった。
いつの間にか夜になってしまっていたようだ。
何か夢を見ていたか…?思い出そうとしても思い出せないし、夜風は冷たい。早く帰らないと風邪を引いてしまいそうだ。

「…お、羊の群れだ」

空にはたくさんの星が出ていた。

5/4/2022, 11:19:52 AM