名無し

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5/8/2024, 3:08:04 AM

 

 
 中学生の時、初めて缶コーヒーというものを飲ん
 だ。牛乳でコーヒーを薄めたものしか飲んだこと
 がなかった私からしたら、缶コーヒーという物は
 大人びたものに見えて、魅力的だった。

           ✳︎

 その日、わたしは部活の帰りに部活の先輩と一緒
 に学校にお金を持ってこないと言う校則と、帰り
 に物を買わないと言う校則を破った。
 校則を破ることに抵抗はあったけど、イケナイコ
 ト、ワルイコトをしていると言う感覚は正直言っ
 て好きだった。
 夏の熱が残った、秋のことだった。
 少し暗くなった帰り道の光る自動販売機で、
 私はスポーツドリンクを、先輩は缶ジュースと間
 違えて、缶コーヒーを買っていた。
 しゅんとする先輩がなんだか酷く可哀想に見え、
 交換しますか?と先輩にスポドリを差し出すとさ
 んきゅ、と言って缶コーヒーを差し出して来た。
 貸し1ですよと私が先輩をこづくと先輩がわかって
 るよとはにかんだ。
 まじかで見る先輩の笑顔はなんだかいつもと違っ
 て私のほおを火照らせた。
 先輩と帰路につき、熱いコーヒーを啜る。
 初めて飲む缶コーヒーはあったかくて、苦かった 
 けど少し香ばしい味がして、先輩の匂いがした。
 
 
          初恋の日



8/2/2023, 12:12:56 PM

お題 病室

僕は天使だ。
天使と言っても人が死んでしまったらその魂を天まで運ぶ、そんなことをするぐらいで人に幸福を与えるとか言う能力はない。
天使同士の交流もないし、人にも見えないから話せる対象はゼロに近い。
でも完全にゼロってわけでもない。
霊感を持ってる奴には天使が見えて、話せたりする。
霊感って言っても、結構強い霊感持っていないとダメだ。弱いと天使は見えないし、話せない。
だから、話せる奴の顔は大体覚えてるよ。
少ないからね。
その中でも、特に印象に残ってるのが美人な女の子だった。
単に綺麗な見た目だったからってだけかもしれないけど、僕は彼女に恋をしていた。
恋が始まったのは会ってすぐの事だった。
切れ長の瞳、白い肌、薄紅色の唇。
一目惚れってやつだ。
でも、彼女は病気だった。
治る病気だけど、辛い病気。
僕は彼女と話すうちに僕はどんどん彼女に引き込まれていった。
彼女は僕を気味悪がることなく、僕の話を聞いたり、自分の面白い話を聞かせてくれたりした。
そして僕は、ひとつひとつの動作を目で追ってしまうほどに、恋に落ちてしまっていた。
そんな僕にとって幸せな時間はあっという間に過ぎて行き、彼女は退院した。
それは僕と彼女が出会ってから二年後のことだった。
退院してからも彼女とは話していたが、いつしか彼女と会うことはなくなり、話すこともなくなっていた。
今思い返しても、なぜ彼女に会いにいかなくなったのかなぜだかわからない。
でも、彼女の新しい出会いを妨げてはいけないと思ったからだと、思う。
僕はずっと彼女といるあまり、彼女は自分の時間より、僕との時間を優先してくれてたから出かけることも無くなって、良い人と出会うこともなくなっていたから申し訳なかったのかもしれない。

そんな彼女は今はもう、大人だ。
整った顔立ちの男の人と並んでウエディングドレスに身を包んでいる。
もうすっかり大人びた美しい顔にはあの頃の様な無邪気な笑みが浮かべられて、僕は少し涙が込み上げてくる。
彼女はもう僕が見えないようで、目の前に立っている僕には気づかない。

ウエディングロードを歩いていたときのこと、彼女は何かに気がついたように、後ろを振り返る。
僕がいた場所だ。
でも、もう僕はそこにはいない。
そこにはただ、天使の羽が一枚あるだけ。

7/27/2023, 1:37:34 AM

 お題 誰かのためになるならば

「誰かのためになるならば、なんだってやれる!」
そう言っていた彼女は今多くの人を支えている。
有言実行だなと僕は思う。
でも...いや、なんでもない。
昔からこんなことをよくアニメ、漫画、ドラマなどで言われている。
「一人の犠牲を元に大多数の命が救われる。」
みたいな言葉。
これは本当のことだったらあなたはどっちがいいと思うだろうか?
一人を助け、大多数を見捨てる。
大多数を助け、一人を見捨てる。
多くの人が大多数を助けるだろう。
僕はどっちもできなかった人間だ。
人を見捨てるのが怖くて、怖くて。
彼女は自分を犠牲にしたよ。
彼女らしいな。悪い意味でね。

7/26/2023, 3:06:12 AM

 お題 鳥かご

この世界は鳥籠だ。ずっと私はそう思っている。
学校だってひとつの鳥篭。家だってひとつの鳥篭。
雛はぴーぴー鳴いて餌を、全てを欲しがる。
それは、地位だったり、金だったり、他の雛だったりする。
雛はやがて他の雛を蹴落とすことを知り、鳥かごの一番いいところを取りに行く。
そして、雛はやがてひとつの鳥籠から出ていく。
そして、他の世界を、他の鳥篭を知る。そして、鳥籠から出ると、雛は立派な鳥になり、一人前になる。世界を知った鳥の運命は大きく分けてふたつ。そこで一番になるか、自分の才能を過信し、自分が鳥籠でしてきたように、蹴落とされるか。
私は、蹴落とされた雛。鳥籠からも出られず、ずっと家という小さな鳥籠の中にいる。
双子の妹は違ったけど。妹は私を蹴落とした、雛。
もう妹は鳥になる。私は雛のままだけど。

7/23/2023, 10:37:44 AM

  お題  花咲いて

「知ってる?C組の佐倉さんとE組の染岡くん、付き合ったって!」
そんな声が朝のホームルーム前の騒がしい教室から、聞こえた気がした。でも、びっくりはしなかったかな。あの二人、いつも一緒にいるし。でも今は卒業が近くなってきた時期。今頃なんて、珍しいな。もう直ぐ、お別れになっちゃうのに。
カバンの中からバレンタインのチョコを出す。もう、渡す相手はいないけど。佐倉さんが、あげちゃったと思うから。
蕾になって、花咲いて。でも、時には蕾にも花にもなれなかった。そんな奴がいたってことぐらい、思い出してね。

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