名無し

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お題 病室

僕は天使だ。
天使と言っても人が死んでしまったらその魂を天まで運ぶ、そんなことをするぐらいで人に幸福を与えるとか言う能力はない。
天使同士の交流もないし、人にも見えないから話せる対象はゼロに近い。
でも完全にゼロってわけでもない。
霊感を持ってる奴には天使が見えて、話せたりする。
霊感って言っても、結構強い霊感持っていないとダメだ。弱いと天使は見えないし、話せない。
だから、話せる奴の顔は大体覚えてるよ。
少ないからね。
その中でも、特に印象に残ってるのが美人な女の子だった。
単に綺麗な見た目だったからってだけかもしれないけど、僕は彼女に恋をしていた。
恋が始まったのは会ってすぐの事だった。
切れ長の瞳、白い肌、薄紅色の唇。
一目惚れってやつだ。
でも、彼女は病気だった。
治る病気だけど、辛い病気。
僕は彼女と話すうちに僕はどんどん彼女に引き込まれていった。
彼女は僕を気味悪がることなく、僕の話を聞いたり、自分の面白い話を聞かせてくれたりした。
そして僕は、ひとつひとつの動作を目で追ってしまうほどに、恋に落ちてしまっていた。
そんな僕にとって幸せな時間はあっという間に過ぎて行き、彼女は退院した。
それは僕と彼女が出会ってから二年後のことだった。
退院してからも彼女とは話していたが、いつしか彼女と会うことはなくなり、話すこともなくなっていた。
今思い返しても、なぜ彼女に会いにいかなくなったのかなぜだかわからない。
でも、彼女の新しい出会いを妨げてはいけないと思ったからだと、思う。
僕はずっと彼女といるあまり、彼女は自分の時間より、僕との時間を優先してくれてたから出かけることも無くなって、良い人と出会うこともなくなっていたから申し訳なかったのかもしれない。

そんな彼女は今はもう、大人だ。
整った顔立ちの男の人と並んでウエディングドレスに身を包んでいる。
もうすっかり大人びた美しい顔にはあの頃の様な無邪気な笑みが浮かべられて、僕は少し涙が込み上げてくる。
彼女はもう僕が見えないようで、目の前に立っている僕には気づかない。

ウエディングロードを歩いていたときのこと、彼女は何かに気がついたように、後ろを振り返る。
僕がいた場所だ。
でも、もう僕はそこにはいない。
そこにはただ、天使の羽が一枚あるだけ。

8/2/2023, 12:12:56 PM