_枯木_
儚い、一寸でも。
「−−この葉っぱが落ちたら、私も散る…きっと、ほら…よく言うじゃない?」
公園のベンチ、目の前に枯木。
温かい珈琲が身体を満たしていく…
私達にとって、この枯木は思い出深く…彼女と出逢った最初の場所だった。
___今日も、他愛もない話を続けていた
「一寸‥またアニメに影響されたの?」
はぁ…と、溜息を零し、呆れていた私だったが…此方をじっと見つめる彼女の視線に感づいた
−−その表情は、どこか哀しみを含んだ笑みに見えたが…その表情さえ、煙草というモノで、ふかしてしまう彼女。
「…け、煙た…!!アンタ、肺が弱いって言ってたじゃ___な…は、はぁ!?一寸!!」
白煙に包まれたその身体は段々と宙へ浮いていった…「フっ、」そう…小馬鹿にした様に笑い、彼女が手に触れようと…
「じゃあね、」
その言葉に、一気に走馬灯なんて…思い出がどんどん涙として溢れていく。
私をすり抜けたその手が、透明に…目の前で徐々に消えていく…
________カラッ、
微かに揺れる瞳に、思わず手を伸ばしてしまった…が、目を擦れば…幻想の様に思えてしまって…
手に当たった珈琲缶が枯木の前にコトン、とぶつかった
−−霞んだ視界はボヤが掛かるが…確かにその空き缶を手に取った時−−
「……あ、」
「ヒラリ、」…枯木の最後の一枚が舞い落ち、自身の手に触れた。
________儚い。一寸の時だとしても…
目の前の枯木は…しっかり、立っていた
_こんな夢を見た_
規律的なアラーム音で起こされる朝。
いつも通りの学校
部活が終わり、電車の揺れに身体を任せて眠りについた…19時半、頃
夢の中、一人の少女の存在
その少女は、大きく…眩しいもので
「________私、歌手になる!」
テレビの前で目を輝かせる一人の少女
-それは、かつての自分だというのに-
大きなステージで歌い、目の前いっぱいのライトに照らされながら…
…幸せそうな人の顔を見たかった。
「私の歌で、皆を笑顔にする」
そんな景色を… -夢見ていた-
「ガタン」と電車が揺れ、
夢の旅は終わりを告げる
その時…ヒラリと一枚の紙が膝元に落ち
開けたままのカバンに気付き、肩を落とした
「…進路希望、調査」
ふと、その紙きれに目をやり…小さな声で呟いた
「…歌⸺いや、A大…に進学…」
その夢…歌手という泡沫は、
本当に、泡のように儚く消える…
いつから…こんな紙きれに囚われる人生になってしまったのだろうか、
私はずっと… -夢を見ていた-
_タイムマシーン_
全身から、じんわりと力が抜けていく
腹部から血が滲み出て、後輩の泣きそうな面が見えた。
身体が、猛烈に熱く感じたり
その後は…体温が下がっていくだけ。
「________先輩_」
えーっと…最期に残るのって聴覚?だっけ…最期って、こんなんなの?…なんか、もう少し生きたかったけど…
もし、-タイムマシン-
そんなものがあったら…少しは…
…なんて、最後の学園生活…
選り取り緑だったな、お前とも会えた
「タイムマシーン」なんて、無くても…
じゃあな、後輩。
精一杯、絞り出した言葉を…最期に
意識はプツリと切れた