どうして言えなかったかな。
あなたとは家族同然の仲だなんて思ってたから?
仲が良すぎて逆に、みたいな?
いや、そうじゃない。
はっきりとした理由が1つある。
けど言いたくない。
言葉にして、カタチにするのがたまらなく嫌だ。
そんなことを考えながら、
部屋の窓からイルミネーションを見る。
さっきこぼしたホットチョコレートが
スウェットのズボンに染みてかなり冷たい。
「あ~、本来なら今こんなとこにいなかったのにな。」
誰もいない部屋に向かって恨み言を連ねてしまう。
世間から仲間はずれにされた気分だ。
私はインスタのストーリーを見ないように、早く寝た。
今日は、憧れの先輩と買い物に行く日だ。
新宿駅で、私は時計を何度も見返す。
ーーうん、大丈夫。集合20分前!
先輩みたいな人を見つけるたびに心臓が弾けそうになりながら、私は駅をぶらついていた。
集合時間になる。
と、LINEの通知が来た。
恐る恐るLINEを開いてみると、先輩からだった!
「今日、どうして部活来なかったの?大丈夫?」
え…?
慌ててカレンダーを確認する。
12月5日………… お買い物、明日じゃん。
ーーーーーーーーー
…!!
私はここで飛び起きた。
何が起きているのか分からず、自分が今どこにいるのかも分からない。
どこからか、小さい子供が走ってくる。
「おかあさんおはよう!」
そのすぐ後ろに、夢で見た顔があった。
「ようやく起きた!おはよう、お昼に出発だよ」
私は現状を把握し、改めてカレンダーを確認した。
12月6日。
今日は、旦那と娘と買い物に行く日だ。
「なんで、泣いてるの?
………そっか。
好きな人、もう空いてなかったか。」
うん。
私、もう生きていく理由ないや。
あの人のために綺麗になった。
あの人のために明るくなった。
あの人のために学校に通った。
あの人のために可愛くなった。
あの人のために………
「『あの人のために』今まで
一生懸命頑張ってきたんだね。」
うん。
これから、誰のために生きていけばいいの?
「その『あの人』さ、俺になってもいいですか?」
ああ、刹那。
普段何気なく通っている改札が、
今はこんなにも離れがたい。
人がたくさんいるから。
あなたはすぐに掻き消えてしまう、きっと。
だからすぐに伝えたい。
胸の内の儚くかき消えそうな、
だけど一生忘れることのないこの気持ちを、ぎゅっと。
そう思ってあなたの肩に手を触れてみる。
次の瞬間、私は切符を買えばよかったと後悔した。
むかしむかし、ある女がいたそうな。
女にはかけがえのない友がいて、名をさえりといった。
だがある日、その友が不治の病になってしまった。
「あなたがいない世界は怖い。認めたくないわ。さえり。さえり。」
女はその友の名前を呼んで、この世に引き止め続けた。
が、その友はふと笑みを浮かべたそうな。
その友いわく、
「ねえ。おかしいと思わない?
人はみんな、死という家に帰るのは周知の事実なのに、
皆帰りたがらない。だから、寂しいおっかあが私を迎え
に来てくれた。それだけなのよ。」
女は気づいた。そうだ。私もいつか死ぬ。
これまでずっと……「死」というのが
自分が消え去ってしまうことだと思っていた女は、
その友のおかげで「家」を思い出すことが出来たのであ
る。
「ありがとう、さえり。もう怖くない。」
……
「私はもう少し寄り道していくから……貴女のために。」
家出少女は、友は本当はもう少し遊んでいたかったというのを忘れなかった。