むかしむかし、ある女がいたそうな。
女にはかけがえのない友がいて、名をさえりといった。
だがある日、その友が不治の病になってしまった。
「あなたがいない世界は怖い。認めたくないわ。さえり。さえり。」
女はその友の名前を呼んで、この世に引き止め続けた。
が、その友はふと笑みを浮かべたそうな。
その友いわく、
「ねえ。おかしいと思わない?
人はみんな、死という家に帰るのは周知の事実なのに、
皆帰りたがらない。だから、寂しいおっかあが私を迎え
に来てくれた。それだけなのよ。」
女は気づいた。そうだ。私もいつか死ぬ。
これまでずっと……「死」というのが
自分が消え去ってしまうことだと思っていた女は、
その友のおかげで「家」を思い出すことが出来たのであ
る。
「ありがとう、さえり。もう怖くない。」
……
「私はもう少し寄り道していくから……貴女のために。」
家出少女は、友は本当はもう少し遊んでいたかったというのを忘れなかった。
7/13/2023, 6:22:47 AM